ちくま学芸文庫、2021年、原著1993年。

第一章 「権利」という日本語
 1 思想表現としての「権利」
 2 〈ライト〉と「通義」
 3 「権」としての〈ライト〉
 4 「利」と〈ライト〉
第二章 利の追求と共同の論理
 1 「権利」と「権理」
 2 全体優先か個人優先か
 3 個人優先主義の問題点
 4 〈ライト〉と共同体主義
第三章 〈ライト〉の思想と平等主義
 1 機会の平等
 2 格差原理と〈ライト〉の思想
 3 逆差別の問題
 4 平等主義の困難
第四章 〈ライト〉の思想と自由の問題
 1 消極的自由の特質
 2 積極的自由の要求
 3 消極的自由を守るための積極的自由
 4 民主制と自由
第五章 〈ライト〉の思想と力の論理
 1 アイディアリズムからリアリズムへ
 2 支配と服従
 3 権利の成立根拠
 4 権利の尊重と力への意志
第六章 〈ライト〉の思想の問題状況
 1 起源と正当性の問題
 2 なぜ必要な思想なのか
 3 陶片追求の論理
 4 望ましい社会の決定方式
 5 豊かな社会の神話
 6 結びに代えて
解説 他に類書というものが存在しない真に画期的な一冊(永井均)

次のような三つの次元の話を絡ませながら、権利概念について考察を加えていく。

まず、ヨーロッパ語の〈ライト〉と、日本語の〈権利〉〈権理〉〈ケンリ〉あるいは「法」といった語の関連について。一見、法や正しさという意味からすれば〈権理〉の語あたりが〈ライト〉の訳語としてふさわしく思えるが、じつはそうではなく、〈権利〉の語が意外にもその本義に通じるところがあると指摘される。

これと並行して、〈ライト〉概念がはらんでいるさまざまな矛盾や動態が追求される。個人に平等に与えられた権利という理想は、その実現に原理的な矛盾をはらんでいて、〈ライト〉概念とは単純にそうしたものではありえない。が、一方でこの概念は、そのような理想主義的な「装い」をまとうべき必要をも有している。最終的には、こうした〈ライト〉概念の本質を、著者は「力への意志」と結びつけて説明している。

そして三つ目の次元として、これらの〈ライト〉概念のあり方を論じるのに、ロック、ドゥオーキン、ロールズ、センといった西欧の思想家だけでなく、福沢諭吉、西周、加藤弘之といった近代日本の思想家の権利思想をおなじ地平のもとで扱っているところに、本書の議論のもうひとつの特徴がある。

思想史の知見も少なからず含まれているが、単純な思想史ではなく、むしろ日本語翻訳の問題への言及によって、もともとの Right 概念が有する特徴を浮き彫りにしようとする試みであると言える。

[J0374/230619]