副題「生と死、ケアの現場から」、晶文社、2023年。

I部 優生思想に抗う
1 難病と生きる──岩崎航・健一さんの「生きるための芸術」
2 知的障害者が一人暮らしすること──みんなを変えたげんちゃんの生き方
3 なぜ人を生産性で判断すべきではないのか──熊谷晋一郎さんに聞く負の刻印「スティグマ」

II部 死にまつわる話
4 安楽死について考える──幡野広志さんと鎮静・安楽死をめぐる対話
5 死にたくなるほどつらいのはなぜ?──松本俊彦さんに聞く子どものSOSの受け止め方
6 沈黙を強いる力に抗って──入江杏さんが語る世田谷一家殺人事件もうひとつの傷

III部 医療と政策
7 「命と経済」ではなく「命と命」の問題──磯野真穂さんに聞くコロナ対策の問題
8 トンデモ数字に振り回されるな──二木立さんに聞く終末期医療費をめぐる誤解

IV部 医療の前線を歩く
9 HPVワクチン接種後の体調不良を振り返る──不安を煽る人たちに翻弄されて
10 怪しい免疫療法になぜ患者は惹かれるのか?──「夢の治療法」「副作用なし」の罠
11 声なき「声」に耳を澄ます──脳死に近い状態の娘と14年間暮らして

終章 言葉は無力なのか?──「家族性大腸ポリポーシス」当事者が遺した問い

医療ジャーナリストが、患者や支援者、運動家や研究者などにインタビューし、取材した記事を集めた一冊。たんに病気・症状のバラエティ、あるいは立場のバラエティだけでなく、思想の面でも幅のある人を扱っている点が特徴的。

たとえば、第4章は、安楽死法制化を進めようとしている幡野広志さんを取材、筆者自身はときに疑問を挟みながら話をうかがっている。安楽死問題を考える上で、幡野さんの主張ひとつひとつに本気で答えることが大事だろう。

第6章で取りあげているのは、殺人事件被害者の親族として、グリーフケアに携わっている入江杏さんで、最初は僕も「苦手なタイプ」と思ったが、この方が取り組んでおられる問題、すなわち「被害者は語らざるをえない」という問題は深い。

「聞き手の癒しになるような伝え方をしないと受け入れられません。そして、聞き手に受け取ってもらえないと、話す者はさらに傷ついてしまう。ですから、自分の感情そのままを話すというよりは、受け入れられるように相手の感情に訴える語り方をする場合がある。それは自分の承認欲求のためではないのです」(220)

第10章はがんの代替療法にはまってしまった人の話で、こういうチョイスも興味深い。第11章は、生まれて以来脳死に近い状態で暮らす西村帆花さんとその両親の話で、シニカルな人は「またその手の話か」と思うかもしれないが、それでも考えさせられるポイントは多い。

終章に玉井真理子さんという方の言葉が紹介されているが、著者が、前向きな物語や「社会の改善」の物語に固執していないところで、これら人々の暮らしから掬いとることができている場面や言葉がある。

[J0418/231026]