僕の近所のお気に入りスポットの話。松江市の東側に嵩山(だけさん)という山があって、331メートルしかない低山だが、山頂から西を眺めると宍道湖、北を眺めると大橋川、東を眺めると中海と大根島を見渡すことできる、なんとも気持ちのいい山で、山頂には『出雲国風土記』の多気社に比定されている布自伎美神社が鎮座ましている。

島根県教育会編『島根県口碑伝説集』(島根県教育会、1937年)所収の「枕木山の縁起」を読んでいると、その中に嵩山も登場。枕木山の縁起物語自体、山神やら弥勒やら薬師やら最澄やら、さらには天狗までがキャストされていてたいへんおもしろいのだが、ここでは嵩山の部分を取りあげて。

枕木山の開祖となった智源上人は、桓武天皇の支流で隠岐に流罪となっていたが、神仏に命を助けられて出家し、枕木山に住んでいた。隠岐に残されたその妻子が夫を訪ねようとするが、山霊の障りにはばまれて夫のところに到達することができなかった。そこで「せめて夫の居る方を望み見んと、それから子供を連れて嵩山に登りこゝから同夜枕木山を望んで遂に山の上で終つた」。「嵩山の三社権現はこれで、今日まで枕木山の四月八日の祭礼終つて嵩山の三社権現を祭るは此理由であるとか」。

嵩山山頂の布自伎美神社の周りにいくつか小さな境内社があったはずだが、この三社権現だったろうか。今でも枕木山華蔵寺のご住職が三社権現を祭ることをしているのか、どうか。

この説話はもともと「枕木山雑記」という書物によるものらしい。なお、松江城の鬼門を守護する枕木山もなかなかいい山だが、松江では有名な心霊スポットでもある。

国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1465126

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