ちくま新書、2023年。

――序章 心理学は、いつ、どのように成立したのか
――第1章 行動主義と条件づけ
実験1 ソーンダイクの問題箱──箱の仕組みを猫は理解できるか
実験2 パヴロフの条件づけ──餌がなくてもよだれが出るのはなぜか
実験3 ワトソンの男児アルバートの条件づけ──恐怖は学習される
――第2章 ゲシュタルトと心理学
実験4 ウェルトハイマーの運動視の研究──線分が動いて見えるのはなぜか
実験5 ゴットシャルトの埋め込まれた図形の実験──経験は役に立たない
実験6 ケーラーの知恵実験──チンパンジーはどこまで考えるのか
――第3章 行動と認知
実験7 トールマンのネズミの潜在学習の実験──頭の中では学習している
実験8 バンデューラの観察学習の実験──他者の行動から学ぶことはできるか
実験9 レスコーラの犬の古典的条件づけ実験──動物は確率を計算できるか
――第4章 認知と記憶
実験10 エビングハウスの忘却曲線──記憶には法則がある
実験11 記憶の文脈効果の実験──「言いたいこと」がなぜ伝わらないのか
実験12 記憶の処理水準モデル──処理が深いほど記憶に残る
実験13 記憶術者シィーの研究──超人的な記憶力の正体
――第5章 認知の誤り
実験14 ロフタスの誤った記憶──目撃証言はなぜ信用できないか
実験15 タクシー課題──とっさの計算でなぜ間違えるのか
実験16 アロイとアブラムソンの実験──うつの人ほどリアリスト?
――第6章 他者と社会
実験17 アッシュの同調行動の研究──なぜ周囲に合わせてしまうのか
実験18 ミルグラムの服従実験──人はどこまで命令に従うのか
実験19 フェスティンガーの認知的不協和理論──退屈な仕事ほど価値がある?
――第7章 発達と愛着
実験20 ハウロウのサル実験──空腹を満たすより大切なこと
実験21 ストレンジ・シチュエーション法──愛のかたちを測れるか
――第8章 発達と知能
実験22 ピアジェの量の保存の実験──自己中心的な子どもの認知
実験23 いたずらなテディベアの量の保存の実験──子どもにとって自然な状況とは
実験24 ウィンマーとパーナーの誤信念課題──「心の理論」の発達研究
実験25 マシュマロテストの追跡研究──テストを受けた子どもたちのその後
――第9章 動機づけと無気力
実験26 デシの内発的動機づけ──アメとムチだけで人は動かない
実験27 セリグマンの学習性無力感──「やる気」を阻害するものの正体
実験28 教育現場における学習性無力感──コントロール感覚が知的意欲を左右する
――第10章 教育心理学
実験29 ローゼンタールらのピグマリオン効果──教師の先入観が学力を伸ばした?
実験30 クロンバックの適性処遇交互作用──適切な教授法は人それぞれ

心理学史入門として、これは秀逸な一冊。

俗流心理学は、一般化が好きな人たちの受け皿になっているようなところがあって、そのことから、理論の一人歩きが跋扈する世界になっている(というのが僕の見立て)。特定の条件下になされた実験結果の洞察が、その文脈を離れてどんどん拡大利用されていき、一人歩きしがちである。そのとき、もともとの実験は「また聞き」で伝えられて、実は誰も原論文を読んだことがない、なんてことも起こりがちである。

その点、本書著者は原典に当たりながら、その出発点となった実験を中心にして心理学の各流派を紹介しており、一般化に急いで学説史に対する正確な理解を欠いた俗流心理学の欠陥を補っている。著者は2016年に『心理学史』を上梓しているとのことで、こちら、買いですね。

[J0478/240710]