岩波科学ライブラリー、2005年刊。

1 ウイルスの歴史は長く、人間の歴史は短い
2 進化の推進力となったウイルス 
3 ウイルスはどのような「システム」か 
4 ウイルスと生体のせめぎ合い 
5 ウイルスに対抗する手段 
6 現代社会が招くエマージングウイルス 
7 エマージングウイルスの時代をどう生きるか 
8 人間とウイルスの関係を考える

―― 「ウイルスの長い歴史で、抗ウイルス剤にさらされる事態はほんの20ないし30年の出来事にすぎない。そして、その間にウイルスは薬剤に対抗して、かつてなかったスピードで変異を進めていることになる。1960年代からは、ブロイラー産業が発展して大規模養鶏が行われるようになった。もともと鳥インフルエンザウイルスは、その自然宿主の鴨では病気はほとんど起こさない。それが狭いスペースの中で多数が飼育されている鶏の間で広がっている間に、鶏の免疫系が産生する抗体の影響の下で変異が進み、高病原性鳥インフルエンザのような鶏に致死的なウイルスとなり、さらには人には感染するようになった。ウイルスがその長い歴史の中で、抗ウイルス剤や抗体のようなウイルスの変異を促進する影響を受けるようになったのは、この半世紀以内のことである」(pp.13-14)

――「人やマウスのゲノムの中には、レトロトランスポゾンと呼ばれる配列がある。この領域はRNAに転写され、逆転写酵素の働きでDNAが合成されて、それがふたたびゲノムの中に挿入されることで、自分のコピーを無限に増やすことができる。・・・・・・ヒトゲノムが最近解析された結果、その約30億塩基対のDNAの中で、驚いたことに、レトロトランスポゾンはほぼ半分を占めることが明らかにされた」(pp.15-16)→ 進化の原動力に

――ワクチンによるウイルス感染との戦いは、戦略的に見ると、達成状態によって、制圧、排除、根絶の三段階に大きく分けられている(pp. 71-72)。第一段階の制圧:ワクチン接種により、ウイルス感染の発生頻度や激しさを無害なレベルにまで減少させることができた状態(日本での麻疹など)。第二段階の制圧:ウイルス感染の発生は阻止できたが、ふたたび侵入するおそれがあるため、常に制圧する努力の継続を必要とする状態。第三段階:ワクチン接種を中止しても、もはや感染が起こらない状態。それが達成されたのは天然痘だけ、WHOは麻疹とポリオを目標としている。

――エマージング感染症(pp. 83-84)

――「個人の人権を尊重した上での集団貿易という難しい問題が浮上していることを広く社会は認識し、議論を深める必要がある」(p. 101)

――植物から動物への感染という可能性。サーコウイルス、新しい名前ナノウイルス(pp. 113-114)

[J0029/200427]