講談社ブルーバックス、2015年。

第1章 超巨大ウイルスの発見
1‐1 ミミウイルスの発見
1‐2 そもそもウイルスとは何か
1‐3 続々と発見される巨大ウイルス
1‐4 パンドラウイルスとは何か
1‐5 眠りから覚めた超巨大ウイルス
第2章 第4のドメインとは何か
2‐1 核細胞質性巨大DNAウイルス
2‐2 生物の分類とrRNA遺伝子
2‐3 3ドメイン説
2‐4 第4のドメインと新たな提案
2‐5 迷走する議論 ~ウイルスは生きている?生きていない?~
第3章 「生きている」とはどういうことか
3‐1 生物とは何か、細胞とは何か
3‐2 ウイルスが先か、細胞が先か
3‐3 ウイルス工場とヴァイロセル
3‐4 細胞核は生きている?
3‐5 ミトコンドリアと葉緑体
第4章 新しい初期生命進化論へ
4‐1 細胞核と巨大DNAウイルスとの関係とは
4‐2 巨大DNAウイルスと生物の進化
4‐3 アンフォラ(壺)型ウイルスの進化・私案
4‐4 巨大DNAウイルスが語りかけるもの

従来、害悪としか認識されてこなかったウイルスが、遺伝子の水平伝播などを通じて、実は生物進化に重要な貢献をしてきた存在だと言うことが一点。もう一点は、ウイルスの存在が、生命とは何かという理解の再考を促すものであるということ。

21世紀には大型のDNAウイルスのゲノムが次々と解読されていった。そして2003年に見つかったのがミミウイルスであり、これら核細胞質性DNA巨大ウイルスは、従来のウイルスとはちがった特徴を有することが分かってきたのである。

3つのドメイン説とは、原核生物が「細菌(Bacteria)」と「古細菌(Archaea)」の二種類に分けられることに気づいた生物学者カール・ウーズが提唱したもので、「界」よりも上のレベル「超界(domain)」として、「真核生物(Eukarya)」「古細菌」「細菌」というグループを立てるものである。なかなかその内実は難しいのだが、アーキアと真核生物には、ゲノムDNAのつくりに関して、バクテリアにはない共通点が存在するのだという。

そして、4つのドメイン説とは、これら3つに加えて、ミミウイルスのような巨大DNAウイルスを独立のドメインとみなすものである。このことは、巨大DNAウイルスを明確に生物としてみなすことを意味する。この説にはまだまだ異論反論が多いらしい。この議論の中で、著者が指摘するのは、生物の基本単位を細胞とみなす見方が揺らいできているという事態である。この理路からすれば、 進化的に「共生」を進め、細胞の一部を成してきたミトコンドリアや葉緑体であっても、独立の生命とみなせないこともないのである。「本書で述べてきたことを総括すると、まず、これまで「生物」とよばれてきた「細胞性生物」と、ウイルスとの境界線が、段違いに不鮮明になってきたということである」(p.196)。著者は述べていないが、逆に生命的存在が「依存する」とはいかなることか、という主題が浮かび上がってもくる。

このあと、ウイルスが先に登場したか、細胞が先に登場したかという生物史の議論に突入する。そして改めて、漸進的進化の上で、生物と無生物に厳然たる境界が存在しえないことが示唆される。

さらに、巨大DNAウイルスの感染が、細胞内膜系の核膜への進化のきっかけをつくったという仮説も立てられるらしい。

[J0038/200511]