2013年、幻冬舎文庫、原著2011年。俳優・安田顕が父親について書いた、まあ他愛のないエッセイ集なのだけど、出てくる地名や風景が北海道民には懐かしい。お父さんは鉄の町、室蘭の溶接工だったとのこと。「北の国」みたいな世界より、こっちの方がずっと本当の北海道なのだ。

妙に印象に残ったのは、番外編で安田顕とお父さんが座談会形式の会話をしていて、このエッセイについて語っているところ。

「最初の頃は面白くない。絶対面白くない。」
「でも、後半の方が、もうなんにもない。ネタが苦しくて。」
「いや、いい、いい、すごくいい。」
「そうなの。不思議なもんだ。」

いかにもな労働者でありながら、クラシックが趣味だったというお父さん。そういう人の審美眼。

[J0037/200506]