岩波ジュニア新書、2014年。

1章 黒人文化の背景
2章 動物民話
3章 ジャックの物語──ワルこそヒーロー
4章 トウモロコシの皮むき歌──自由になりたい
5章 ハンマーソング
6章 黒人霊歌とゴスペルソング
7章 ブルーズ──ゆううつといかに距離をおくか

冒頭では、マイケル・ジャクソンから、アメリカの奴隷制度下以来の黒人文化を読み取っていく意外さ。いまの子どもがどれくらいMJを知っているかは、まあ別として・・・・・・。

「黒人民話の「ジョン」または「ジャック」は悪魔と勝負をすることがよくあって、ジャック(ジョン)が勝ちます。なぜ悪魔と勝負することになるのかといえば、「悪魔と黒人はともに天国を追い出された者同士として通じるところがある」というのが、ひとつの説明です」(p.52)。「悪魔は神に見捨てられたのですから、決して幸せになることはないのです。そうした存在の悪魔にアメリカの黒人たちは親近感をいだき、自分なりの悪魔像をつくりました。黒人の悪魔は、力も強いが弱みも持ち合わせた人間味のある存在となりました」(pp.53-54)。

「ブルーズが生まれたころの南部の黒人の多くは、いまの私たちから見ると、「どうやって生き続けていたんだろう」と思うほどの苦難を生きていました。でもすごいのは、その苦難を「トラブル君」とよび、自分のうつ状態を「ブルーズ君」というキャラクターにしてしまったことです。トラブル君に話しかけたりブルーズ君に文句を言ったりして、「やれやれ、かなわねえなあ」と歌って「ダメ男」のペルソナを演じ、深刻な事態をまるで人ごとのように扱っています」(pp.161-162)。うーん、こういう外在化のしかたなら、普遍性もあるよなあ。ロバート・ジョンソンのCDでも引っ張りだして聞き直したくなるな。

「おわりに」の著者のことばから、「私と黒人文化の出会いは、テキサスの刑務所で録音された囚人の歌声でした。くわしいことは何も知らずにカセットテープの歌声を聞いただけだったのですが、単調でえんえんとつづくコール・アンド・レスポンスの合唱に、意味もわからず感動しました。人は声を出してつらい人生を堪えるのだと、直感しました。人の声を聞くことが、大きな救いになるのだとも思いました」(p.185)。

[J0044/200524]