河出書房、2018年。雑誌などの媒体に発表した書き物を集めた本であるが、たしかに、著者のこれまでの仕事全体を見渡す講義として読むことができる。フーコー的とでも言いたくなる密かな反骨精神に満ちた仕事群。タイトルの「日本民俗文化学」という言い方に、著者がどれだけこだわっているかは不明であるが。

  • 1 変化する生のスタイル(生老病死の近代;“脳力”社会の発生;近代を病む—漱石と神経衰弱)
  • 2 近代を生成する民俗世界(洋食の光景 味覚の更新;家族写真のスタイル—写真構図の展開と表象;時の感覚と心性)
  • 3 伝承する心身の知と変容(身体と性欲・セクシュアリティへの眼ざし;芸能と身体技法の伝承;フォークロアへ旅する身体—「七人みさき」伝承から)
  • 4 戦争とナショナリズムの現在(富士山の近代;戦争と民俗/民俗学;敗戦と天皇フォークロアの行方;戦死者の亡霊と痛み)

個人的にとくに関心を寄せているのは戦争の問題なので、第十一章「戦争と民俗/民俗学」、第十二章「敗戦と天皇フォークロアの行方」、第十三章「戦死者の亡霊と痛み」。

印象に残ったのは、第九章「フォークロアへ旅する身体:「七人みさき」伝承から」における劇作家・秋本松代が1970年、土佐の海辺の町で出会った辻での酒宴。土着的なもの、1970年という時代、演劇という文化、この要素が重なってできた風景がまた令和のいまにぐっと来る。著者の試み自体、秋本の頭越しに「土佐の民俗」を描こうとするものではなく、彼女のまなざしともにそれを捉え歩むものなのだから、きっとこんな感想だって許されるだろう。

[J0045/200528]