誠信書房、1970年。この本は、なにか気になったことがあれば手に取る、タネ本でもあり指針でもある存在。今日もたまたま手に取ったので、ちょっとブログに書いてみる。外見は古い昔の講義テキストといった体裁で(そのこと自体は事実でもあるのだが)、今、読んでいる人がどれくらいいるだろうか。

1 産業主義の福音:サン-シモン
2 実証的精神による社会の再建:オーギュスト・コント
3 社会進化論:ハーバード・スペンサー
4 ゲゼルシャフトと人間疎外:フェルディナント・テンニエス
5 分業と社会的連帯:エミール・デュルケーム
6 官僚制をめぐる諸問題:社会主義との関連において

みんな知ったような顔をしているが誰もきちんと読んでいない、評論があっても妙に斜めからの「新解釈」のものしかない、といった「古典」はあるもので、サン-シモン、コント、スペンサーら、いずれもそうした種類の存在だ。ところが筆者と言えば、サン-シモン著作集を単独で翻訳し終え、これら原典に通じた第一人者。コントについては、清水幾太郎の岩波新書が2014年にちくま学芸文庫の再編集版で出版されたが、もちろん清水にバランスの取れたコント紹介を委ねるというわけにはいかない。

たいがいは1~2ページや、多くて5~6ページの形どおりの紹介が多いなかで、各論者の学問の歩みや概要をそれぞれ数十ページ程度の分量で、しかもまったく奇をてらわずに辿っている本書の存在はありがたい。数多の「独創的研究」が干からびていくなかで、少なくとも僕にとって、この本の価値は変わらない。

[J0047/200528]