「小さな今井」(自費出版)、2020年。著者は、長く鳥取県で教員を務めた方。戦争中の情報統制の中で秘せられてきた大事故、玉栄丸爆発事故の真相に迫る。

玉栄丸爆発事故は、1945年4月23日に境港で起きた。最初、火薬を荷揚げしていた陸軍徴用貨物船・玉栄丸が爆発、それが岸壁の倉庫にまで誘爆を起こしてなんと境港の市街地の三分の一が焼失したのだという。比較的被害の少なかった山陰にあって、最大の戦災である。

資料によれば死者110名、負傷者309名というが、それもまだ漏れがあるとのこと。特に著者は、玉栄丸に乗っていた朝鮮人乗組員20数人の行方がわかっていないことを見逃さない。

本書で著者は、多くは残っていない当時の写真を可能なかぎり掲載していて、当時の被害がどれほど酷かったかを生々しく伝えている。その中でも爆心地のものは、軍部の命令で植田正治が撮影したものである。

1943年に鳥取地震が1000人以上の死者を出しながら戦時下の情報統制で世間に知らされずにきたことは聞き知っていたが、正直に言うと、玉栄丸爆発事故のことは今まで知らなかった。この事故の凄まじさと同時に、この事故をないものとして覆い隠してきた戦争体制の恐ろしさをも感じる。

誰かがやらなければ埋もれてしまったかもしれない歴史の事実を掘り起こす、責任感という言葉が浮かぶ素晴らしいお仕事。こういう方がおられることこそ、地域の力だと思う。

[J0054/200614]