1986年、中公文庫。1966年に刊行された本の増補新版とのこと。なるほど、学者然としていない好事家ならでは魅力がつまった本、昔の中公文庫ではこういう感じの本によく出会えた気がする。著者は荒俣宏の先駆け的な存在、というか、実際、若き荒俣と一緒に仕事をしていた模様。

第1章 賭博史話
第2章 近世賭博要覧
第3章 明治賭博史
第4章 現代賭博論

万葉集に出てくる賭博用語。宮仕えの「つきあい」として学ばねばならなかった賭博。中世の頼母子や無尽から派生した、近世の富突。

各種の文芸賭博は、bokete的な感じだったのだろうか。ふしぎな道教的観念に満ちた明治のチーハー。サイコロ賭博でいかさまをするための滑り止め薬「モーカルゼー」は、明治から大正あたりの商品らしい。バッファロー吾郎Aさんの「オモシロクナール」の先祖だね。

1986年刊の本なのでちらりと言及もあったが、任天堂、いやNintendoが花札メーカーだったことは、本当に意義ぶかし。江戸時代にポルトガルから「カルタ」が輸入され、幾度かの流行の波が生じるが、それがために禁制に。それをかいくぐるべく発明されたのが和風に装いをあらためた花札だと、ゴローニンが書き残している(91-92)。花札が江戸より京都で盛んであったのは、米・船問屋が集中していたことに加えて、近隣で和紙と、台紙に用いる糊に加える粒子の細かな土に京都のものが適していたからだとか(92-93)。そしてまた、後に花札が普及したのには、軍隊の存在があったからという(184-185)。いずれにせよ、任天堂がゲーム機を引っさげて世界に羽ばたいたというけれど、その淵源はポルトガルにあったというわけだ。

最後に、この書に示されている主要参考文献のうち、近代デジタルコレクションで閲覧可能なもののリンクを貼っておく。

西沢笛畝『うなゐのとも』(山田芸艸堂、1924年;*全10巻だがリンク先は第1巻)
尾佐竹猛『賭博と掏摸の研究』(総葉書店、1921年)
清水行恕『賭博要覧』(司法省、1922年)
宮武外骨『賭博史』(半狂堂、1923年)→見あたらず
伊藤晴雨『江戸と東京風俗野史』(弘文館、1927年;全4巻か、リンク先は第1巻)
司法省調査課『賭博に関する調査』(司法省、1927年)
酒井欣『日本遊戯史』(建設社、1933年;リンク先は1934年刊本)

[J0075/200820]