講談社ブルーバックス、2017年。とても分かりやすくてとてもおもしろい(語彙)。ブルーバックスの真骨頂。

第1章 気候の歴史をさかのぼる
第2章 気候変動に法則性はあるのか
第3章 気候学のタイムマシン──縞模様の地層「年縞」
第4章 日本から生まれた世界標準
第5章 15万年前から現代へ──解明された太古の景色
第6章 過去の気候変動を再現する
第7章 激動の気候史を生き抜いた人類

ミランコビッチ理論。セルビアのミルーティン・ミランコビッチに発する、地球の軌道要素と気候を結びつけて考える理論。本書の基礎のひとつにもなっている。

部分において線形性や周期相も含んでいる、相転移を含む変動パターン。「「変動に何らかの傾向が見られた場合、それを近い将来に当てはめることは必ずしも無意味ではない。しかし、本当に劇的な変化までは予測できないし、その先にどんな世界が待っているかも本質的に不可知である」」(70)。

現在進行中の温暖化は、相転移に近い(74)。

奇跡の湖「水月湖」。15万年の歴史を持ち、7万年前から年縞が堆積。条件として、流れ込む川がない。湖底に酸素がない。平均気温がほぼ4度で、湖底に冷水層が定着。しかも沈降し続けていて埋まることもないという。

「歴史的に見ると、ほとんどの古代文明は1年の不作であればなんとか対応できるだけの備蓄を持っていた。・・・・・・だが現実問題として、歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が数年にわたって容赦なく続くことによって発生しているのである」(177)。「ときどき暴れる気候に対しては、現代社会は思っている以上に脆弱な基盤の上に成り立っている。だが少なくとも先進国において、そのような議論を耳にする機会は意外なほど少ないように思う」(179)。

より面白い観点。氷期末期の気候は寒いだけでなく、不安定であった(193)。「気候が安定している場合、狩猟採集民と農耕民はそれぞれの価値観で生活を維持することができた。ではまったく同じ思考実験を、気候が暴れていた時代に当てはめるとどうなるだろう」(197)。「来年が今年と似ていることを無意識のうちに期待する農耕社会は、気候が暴れる時代においては明らかに不合理である。言い換えるなら、氷期を生き抜いた私たちの遠い祖先は、知恵が足りないせいで農耕を思いつけなかった哀れな原始人などではなかった。彼らはそれが「賢明なことではない」からこそ、氷期が終わるまでは農業に手を付けなかったのだ」(200-201)。

[J0100/201105]