三元社、2010年。1980年に出版された『大正文化』という新書を増補改訂して、単行本として再版したという変わった経緯。

第1章 ある大正人の一日
第2章 巨大都市東京の誕生
第3章 成金の輩出
第4章 大量消費型の社会
第5章 大正文化の成立
第6章 時代としての大正
第7章 時代区分としての大正
補論 文化環境としての郊外の成立
補論2 公衆衛生と「花苑都市」の形成

社会史的なディティールは、この時代のおもしろさを映し出して興味津々。あちこちの広い領域から話題を紹介していて飽きることがない。

ただ、この時代を特徴づける段になると、視野の広さはあだとなって、議論の軸の不在となっている。遊郭や遊女の問題の記述に相当力を入れていて、それが大事なのはよく分かるが、この時代やその文化全体の把握としてはバランスを失してはいないか。

著者は、文藝評論家・荒正人の論を引きながら、「大正デモクラシー期」ひいては「大正時代」という時代区分に異を唱え、「1910年代-1930年代」という時代区分を提案している(171)。だが、どこに視点を置くかによって時代区分というものは違いうるものだし、視点や意図をじゅうぶんに画定せずにざっくりと「1910年代-1930年代」とするのでは、「大正時代」という区分と大きく変わるものではない。

だいたい、この本のタイトルを「1910年代-1930年代文化」とせずに、「大正文化」のままにしてあることは、後者の時代区分の説明力を証するものではないか。これを無節操とまで言うのはちょっと厳しすぎるかもしれないが、既存のものを批判するのであれば反批判されてもしかたがないところ。

[J0127/210129]