筑摩書房、ちくま評伝シリーズ・ポルトレ、2015年。

プロローグ さすらい人の二つの旅
第1章 パトリックからラフカディオへ
第2章 辣腕記者ハーン
第3章 島から島へ
第4章 松江の幸福
第5章 「振り子」の日々
第6章 東洋でも西洋でもない夢
巻末エッセイ「むじな、または顔のない人」赤坂憲雄

その複雑な出自や経歴をたどりつつ、たんに日本礼賛だけじゃない八雲像を分かりやすく描いて、良書。これだけ質が高いのだから、著者名も出したらしいのに。奥付にすら情報がなくて、見返しに構成・文として斎藤真理子さんと書いてある。

八雲の怪談が再話であり創作であることを踏まえつつ、その物語としての力を確かめるくだり。日本社会や日本人に対して愛情だけでなく、それと同時に否定的な気持ちを持つ瞬間もあったこと。一点だけ難じるなら、松江や島根がひたすら辺境扱いされていること。鉄道が通っていなくても明治はまだ北前船のような海路が生きていたし、実際に今ほど格差は大きくはなかった。東京や熊本ほどに近代化し変化はしていなかったかもしれないが、だからといって「遅れていた」というわけではないのだ。

[J0130/210207]