岩波書店、2020年。

第1章 変貌しつつある資本主義
第2章 資本主義の進化としての「非物質主義的転回」
第3章 製造業のサービス産業化と日本の将来
第4章 資本主義・不平等・経済成長
終章 社会的投資国家への転換をどのように進めるべきか

経済学のなかでどういう位置づけになるのかは分からないけど、これは勉強になる。日本経済の停滞の説明としても明確。

1970~80年代にはじまり、2010年代に急速に台頭した「資本主義の非物質的転回」。従来、「情報化」「金融化」「グローバル化」等々と言われてきた現象は、資本主義の非物質主義的転回の一側面を表している。経済活動が生み出す価値は、「物質的価値」から「非物質的価値」へと重点を移してきている。

カーシェア・サービスやUber が自動車製造の需要を縮小させるなど、新しい技術は物質ベースの経済を縮小させる。しかしそれでも、非物質主義的転回とは、脱物質主義ではない。モノが、非物質的な価値を表現し、伝える媒体へと変わっていくのである。「製造業のサービス産業化」とはその一環である。デジタル化技術はたんに生産過程を効率化するだけではなく、消費者との接点を拡大してくれる。この非物質化は、消費・労働・資本といった領域で生じてきており、その現れとして資本の面では人的資産やそこへの投資が重要性を増してきている。

今日の資本主義にとって非物質主義的転回と並ぶ二大課題は、「脱炭素化」である。脱炭素化は、エネルギー集約型の産業構造から、知識集約型の産業構造への転換を求めるため、このふたつの課題に密接に関わりあっている。実際の環境問題の発生、カーボンプライシングといった政策の採用、それからこれまでの各国の実績からして、脱炭素化を経済成長の足かせとみる見方はもはや古く、脱炭素化を図ることこそが経済成長の鍵であり条件となっている。人材への投資に対する見方と同様に、こうした理解において日本社会は決定的に遅れをとっているのである。日本の大企業はむしろ、脱炭素化動向に逆張りの方針をさえ採っており、そして実際に衰退を続けている。

資本主義の非物質主義化は、人材への投資、教育への投資の重要性を増大させる。また同時に、社会的な不平等が経済成長の妨げになる状況を生み出す(142)。不平等は、教育機会の格差を生み、人的資本の質的低下をもたらすからである。筆者は、こうした観点から、ベーシックインカム以上に、教育訓練機会の拡大に投資をする「社会的投資国家」をめざすべきだと述べる。

最後に筆者はいう、「日本企業は納得するまでに時間がかかるが、いったん踏み出すが、取り組みは加速度的に進んでいくだろうし、その力量をもっている。過去二〇年間で一敗地にまみれた日本企業だが、以上の展望を踏まえると、次の二十年は失地を回復できるかもしれない」(220)。

日本の教育をみていると、そこまで将来に楽観的にはなれないのだが、日本ではむしろ企業が社会を動かす動因になっていることを考えれば、そういう見方もできるのかもしれない。たいへん勉強になったが、資本主義の非物質的転回という命題に関わって、投資の変容、実体経済から非実体的な資本経済への転回(カジノ資本主義?)といった状況の位置づけが次の問題として気になった。

[J0161/210525]