増補改訂版、鎌田陽司監訳、山と渓谷社、2021年。原著は1991年、最初の邦訳は2003年。

第1章 伝統
第2章 変化
第3章 ラダックに学ぶ
第4章 グローバルからローカルへ
解題 ローカリゼーションという希望(鎌田陽司)

中国やチベットに接したインドのヒマラヤ地域の少数民族、ラダックの文化と、それが近代化の波を受けるようになる過程を描く。文化人類学の家族の記述では、一妻多夫制を採る文化はたいへん珍しいとされる、そのうちのひとつでもある。

副題は「ラダックから学ぶ」とあって、近代化に対するローカリゼーションのあり方を提示しているということなのだが、むしろそれ以前の過程、近代化と開発の影響がどのように破壊的に作用するのかという実例として興味深かった。

とくに、近代的開発が生み出す諸効果のひとつとして、自分が育った伝統文化への「劣等感」をもたらすという指摘、なるほどと。

「私がラダックで見た悪循環の中でも、おそらくもっとも悲劇的なのは、個人の自信喪失が、家族や共同体の結びつきを弱くすることにつながり、それがさらに個人を自尊心を脅かすということだろう。この悪循環全体の中で、消費主義が重要な役割を果たしている。情緒の不安定さが、物質的なステータス・シンボルへの欲求を強めるからである。自分を認めてもらいたい、受け入れてもらいたいという理由で、持ち物を増やそうとする衝動を強める。持ち物によって自分の存在を認めてもらいたいという表われである。これは結局、物そのものに魅了されることよりも、はるかに重要な動機になっている」(209)。

また、発展途上国で宗教間や民族間の対立意識が強まるのも、宗教や文化のちがいのせいではなく、経済発展のモデルが中央集権的で、権力と意志決定をごく少数の手に委ねるせいであるという。

最初にこの本が出てから30年。増補部分ではローカリゼーション運動の現在が描かれているけど、「成功例」とされているラダック社会の現状がどんなものか、気になるな。

[J0164/210603]