ちくま新書、2021年。

第1章 古代
第2章 中世
第3章 近世前期
第4章 近世後期
第5章 近代

「血縁」や「血統」とは、江戸時代の新語であるという、目からウロコの、この研究は超重要ではないの。平安・鎌倉時代では「血筋」も血縁という意味ではなく、むしろ「筋」単独で用いられていたと。たしかに、仏教の「血脈」は血縁ではない。また、「法脈」の語もあって「脈」が主だと著者は指摘する。後世、浄土真宗の展開のなかで、血脈と血縁を重ねあわせるような事態も生じてくる。

新しい「血」観念の端緒は、中江藤樹あたりに認められるという。その前提には、穢れ観を払拭したキリシタンによる「血」観念の影響があるとか。「血を分け」のように、「血」一文字で血縁を表す用法を「発明」し、普及させたのは、近松の浄瑠璃だという。「血縁」の語は当初チエンと湯桶読みされ、幕末維新期にケツエンと読まれるようになったと。

重要な指摘が目白押し。「血縁」の語が浸透することによって「縁」概念も意味が変化し、前世を前提とした語から、切ることのできない現世寄りの意味にシフトしたと。さらには「皇統」「血統」の語の歴史や意味変化から、天皇・皇室の理解にまで話題は及ぶ。ひとつの観念の歴史がどれほど重要か、そのことを示す例としても、必読書。

[J0166/210610]