石井昌幸、坂元正樹、志村真幸、中田浩司、中村哲也訳、共和国、2021年、原著は2013年。

序章 第1章 人類学と体罰
第2章 日本の体罰史―その重層性
第3章 体罰とコンテクスト
第4章 倫理
第5章 体罰の原因と文化の複数性
第6章 権力の言説、言説の権力
終章 「暴力的文化」の神話
補論 アメリカ合衆国における体罰

著者はアメリカ人で、オックスフォードで社会人類学の学位を取得した人とのこと。いかにもあちらの社会人類学の手法で書いた研究という一冊。(別にネガティヴな意味でそう言うわけではない。)人類学的研究と言えば厚いエスノグラフィーを期待してしまうところ、フィールドワークから直接得た材料はあまり多くはないが、この主題ではやむをえないところ。

R.ベネディクトの日本論を相対化し、体罰に関する「文化主義」的な見解から距離を取る。代わって、より歴史化した解釈を提示するとともに、日本文化を一枚岩ではなく多様な立場や解釈の絡み合いという見地から理解しようとする。フーコーの規律権力論を背景のひとつとしているのも「いかにも」だが、このフーコー的解釈が成功しているかは微妙なところ。

個別の指摘でおもしろいと思ったのは、体育教師は体罰教師の役割を演じるように強いられているという指摘で、それは森川貞夫や菊幸一による指摘もすでにあるらしい。また、体罰を含むヒエラルキー的構造が「チームらしさ」の感覚に結びついているという指摘。

事象のレベルで手薄なのは、軍隊教育とその影響に関する記述と考察。目も覚めるような分析とはいかなくとも、社会人類学のアカデミックなフォーマットで日本の体罰についてまとめたという点で価値のある本。

[J0180/210731]