共和国、2020年。

第1章 新政府か反動か、あるいは…西南戦争・山鹿コミューン・アジアの革命
第2章 水俣病と悶え
第3章 炭鉱と村
第4章 米騒動

「国道3号線」というラインに掲げて、九州の民衆史を辿ろうという試みは魅力的だ。抵抗の民衆史としてアクチュアルな主題でもある。

しかし、軽い。取りあげている人物や事件は、たしかにひとつひとつ意味の深いものなのだが、対象が重いだけに記述の軽さがいっそう際立つ。たとえば、石牟礼道子の悶えを取りあげても、結局のところ著者自身はその悶えを共有してはいない。あるいは、やすやすと共有していると思っているところで共有していない。かといって、その分だけ、学者としての立場を徹底しきるというわけでもない。「民衆史を掘り下げる」と言っているが、資料・調査の面か、あるいは分析・思考の面か、いずれかで執念深く掘りさげる深度がほしい。

良心的ではあるのかもしれないけど、石牟礼道子の世界によりは、『苦界浄土』に描かれていた、どやどやと水俣に押しかけた医学者や運動家たちに近い。10年20年をかけても、次作ではこの印象を裏切ってもらいたい。

[J0181/210731]