ちくま新書、2021年.

第1章 デジタル世代の子どもたち
第2章 動画・テレビは乳幼児にどう影響するのか?―マルチメディアと言語習得
第3章 デジタルと紙の違いは何?―マルチメディアと読解力
第4章 SNSのやりすぎは教科書を読めなくする?
第5章 デジタル・ゲームは時間の無駄か?
第6章 AIは言語学習の助けになるか?
第7章 デジタル時代の言語能力

いよいよ本格的なデジタル世代の台頭という感じで、新型コロナによる授業のオンライン化もあって、もちろん関心のあるトピック。学習のデジタル化の影響の話も興味深いが、もう一歩進むと、結局はゲームとは何か、コミュニケーションとは何か、言語能力とは何か、といった問い直しになってくるところがいっそう重要だ。

読んだ感想をまるっと言うと、学習のデジタル利用に関して、実験や調査から即指針を引き出せるようなはっきりしたエビデンスというのはなくて、「手がかり」的な研究結果をもとに、省察で動くしかないなという。その手がかりとなるエビデンスが大切なのは前提。

乳幼児を中心に「ビデオ不全」という現象はすでに広く認められていて、対話的な学習に比して、フィードバックや身体的関わりのない言語学習の方法は効果が劣るとのこと。

長文の読解力養成については、デジタル媒体より紙媒体の書籍が勝るとのこと。本が持つ物理性・身体性のメリットが、なかなかデジタル媒体だと実現できないらしい。「デジタル媒体では、紙の媒体と比べ、マウスやタッチパネル等での操作に認知不可が多くかかり、その結果、本来の認知活動(読解)への集中が途切れ、効率が落ちることが示されている」(129)。次がいちばん納得した箇所だが、「たとえば、デジタル媒体で読む時には、ページをめくるのに、画面の端をタップしたり、スワイプしたりする必要があるが、人はページをすべて読み終わってから、そうした操作に取りかかる。視線もその際、テクストから一字離れる。一方、紙の媒体で読んでいる時は、人は無意識のうちに、ページを読み終わる前にすでにページめくりを始めているという」(130)。たしかに。このほか、紙媒体では読むときに手の位置が読みの視線を誘導したりと、「私たちは、テクストを読む時、目だけでなく、手で読んでいたのである」(130)という。

紙媒体かデジタル媒体かに関しては、結局のところ使い分けが大事だと。「しかし、このような使い分けやストラテジーを構築できないまま、情報過多のデジタル環境に放置されたままになっていると、必要な情報を正確にとらえることが難しくなる可能性がある」(138)。

言語学習におけるゲーム利用については、かなり具体的な試みも紹介されているので、そこに関心がある人には参考になりそうだ。

一応、結論的なパラグラフをひとつ。「デジタル世代は、どんどん新しいテクノロジーを取り入れ、その言語使用も認知スタイルも常時、変化・発達を遂げていくだろう。デジタル・テクノロジーは、人間の認知機能の一部を肩代わりするものであることから、うまく使えば、人間の認知機能を拡大する魅力的な道具になるが、明確なビジョンがないまま盲目的に依存すると、脳の分析能力や、一つの物事を論理的・批判的に熟慮する力を低下させる可能性がある。第4章で見たように、SNSのヘビー・ユーザーの子どもたちの間で、論理・分析思考の根幹を担う学習言語の習得が滞ってしまっている可能性が高いのも、その一例である。論理・分析思考から逃げるように、ますますSNSに依存するということになっているのかもしれない」(282)。

ちらっと、教師に必要なデジタル・リテラシーとして、(1)目的に合ったコンテンツを見つけ使えること、(2)動画・ブログなど、目的に合ったデジタル・コンテンツを作れること、(3)デジタル機器を使って情報交換やコミュニケーションができること、と一般的な整理が紹介してある。そう言われればそうだね。

[J0188/210818]