Month: June 2021

小島庸平『サラ金の歴史』

中公新書、2021年。

序章 家計とジェンダーから見た金融史
第1章 「素人高利貸」の時代―戦前期
第2章 質屋・月賦から団地金融へ―1950~60年代
第3章 サラリーマン金融と「前向き」の資金需要―高度経済成長期
第4章 低成長期と「後ろ向き」の資金需要―1970~80年代
第5章 サラ金で借りる人・働く人―サラ金パニックから冬の時代へ
第6章 長期不況下での成長と挫折―バブル期~2010年代
終章 「日本」が生んだサラ金

うわ!これはおもしろい!凄い仕事だ。著者は農経(農業経済学)の人らしく、サラ金なんて経済学ではぜったい周辺のテーマなんだろうけど、「サラ金の金融技術の革新」を描くところは、ふつうの社会史を超えて、経済学になじんだ人ならではのおもしろさ。一方では、ジェンダーの時代的変容といった側面にも目配せがされている。やっぱりハイライトは、この研究に手を染めたきっかけでもあるという、「成長著しい業界に独特なエネルギーを持つ人々の魅力」が描かれた前半部。昭和~平成期日本社会史の必読書のひとつだと思う。

ディティールにおもしろポイントは数多くて挙げきれないが、そのひとつ、各社割拠のサラ金業者11者が結集して1969年につくった、不良債権者のブラックリストを管理する日本消費者金融協会。この組織によって不良顧客のチェックが可能になり、審査基準を緩和するなど業界の発展が促進された。一度は分裂の危機があったそうだが、外資系消費者金融の登場に際して再度結集、実際にこの組織を元に外資系の駆逐に成功する。こうしたシステムは実際、現代における顧客データ管理システムのはしりといえそうだ。

「闇」の側面から、セーフティネットとしての側面まで、いずれにしてもサラ金が民衆の生活の現実に密着した存在として、時代的変遷を経てきたことがよく描かれている。昭和~平成期日本社会史の必読書のひとつだと思う(二度目)。

[J0167/210614]

西田知己『血の日本思想史』

ちくま新書、2021年。

第1章 古代
第2章 中世
第3章 近世前期
第4章 近世後期
第5章 近代

「血縁」や「血統」とは、江戸時代の新語であるという、目からウロコの、この研究は超重要ではないの。平安・鎌倉時代では「血筋」も血縁という意味ではなく、むしろ「筋」単独で用いられていたと。たしかに、仏教の「血脈」は血縁ではない。また、「法脈」の語もあって「脈」が主だと著者は指摘する。後世、浄土真宗の展開のなかで、血脈と血縁を重ねあわせるような事態も生じてくる。

新しい「血」観念の端緒は、中江藤樹あたりに認められるという。その前提には、穢れ観を払拭したキリシタンによる「血」観念の影響があるとか。「血を分け」のように、「血」一文字で血縁を表す用法を「発明」し、普及させたのは、近松の浄瑠璃だという。「血縁」の語は当初チエンと湯桶読みされ、幕末維新期にケツエンと読まれるようになったと。

重要な指摘が目白押し。「血縁」の語が浸透することによって「縁」概念も意味が変化し、前世を前提とした語から、切ることのできない現世寄りの意味にシフトしたと。さらには「皇統」「血統」の語の歴史や意味変化から、天皇・皇室の理解にまで話題は及ぶ。ひとつの観念の歴史がどれほど重要か、そのことを示す例としても、必読書。

[J0166/210610]

三浦展『団塊世代の戦後史』

文春文庫、2007年、原著2005年。

プロローグ 団塊世代とは何か?
第1部 消費する若者
第2部 ニューファミリーの光と影
第3部 マイホーム主義の末路
第4部 存在理由が問われる定年後
エピローグ これから彼らがなすべきこと

団塊世代は 1947から49年生まれらしいから、2021年現在は74歳から72歳となるのか。よくある文化史だけに終わらず、人口動態と絡めた分析が興味深い。が、それに加えて、1958年生まれである著者自身の「声は大きいがロジカルじゃない」「保守性と革新性を併せもった」団塊世代への思い入れ(恨み辛み?)もあちこち濃厚で、正直と言えば正直。たとえば最終章ではこのように批判、「不況の長期化によって、団塊世代の子供は就職が十分できていない。それは、経済学的には、団塊世代自身の雇用を守るために、子供世代の採用が控えられたためであり、社会学的には、団塊世代が働くことの意味を子供に教えなかったためである」(256)。

1960年代の都市における若者文化の勃興は、若者自体に内発的な力があったというよりも、都市における若者人口の大きさによる。独身率が多かったわけではないが、やはり量的な規模の拡大で、独身文化・消費文化を形成した。年上男性との結婚が多かった時代から、特定の年代の人口増によって、同年代どうしの友達結婚というスタンダードを生み出した。などなど。

[J0165/210607]