Month: September 2022

本郷和人『誤解だらけの明智光秀』

マガジンハウス、2020年。

第1章 出自の謎―光秀が生まれた戦国の世とは?
第2章 空白の十年の謎―光秀、放浪する!
第3章 転機の謎―光秀、信長に認められる!
第4章 出世の謎―使命感とプレッシャーに苦悩する五十代
第5章 本能寺の変の謎―光秀、信長を討つ!

2020年大河ドラマ「麒麟がくる」に合わせて出版された、歴史学者によるコラム的な明智光秀の解説書。本郷さんが研究者としてどれほど信用できる人なのか判断する能力は僕にはないが、きっとちゃんとした歴史学者さんなのだろう。研究者にとって、ポピュラーな一般書を書くことはけっこうリスキーなことでもあるのだが、こうして読みやすくおもしろい解説書を出してもらえるのは、読者側としてはありがたい。統一的な描写を提示するというより、細かなテーマを並べたコラム式の記述なのが成功しているのかな。そしてまた、本能寺の変にせよ、光秀や信長にせよ、やっぱり興味の尽きないテーマなのよね。

本郷さんが描いている光秀像は、まじめなハードワーカー。それが本能寺の変の動機となったかどうかは別として、信長にどんどん取り立てられて、プレッシャーに苛まれながら生きていたと。「どんな動機があったにせよ、信長を殺すことで初めて自由になれたのかもしれませんね」(196)とのこと。

[J0296/220917]

藪耕太郎『柔術狂時代』

副題「20世紀初頭アメリカにおける柔術ブームとその周辺」、朝日選書、2021年。

第1章 熱狂のとば口―ジョン・オブライエンと20世紀初頭のアメリカ
補論1 世界大戦と柔術―リッシャー・ソーンベリーを追って
第2章 柔術教本の秘密―アーヴィング・ハンコックと「身体文化」
補論2 立身出世と虚弱の克服―「身体文化」からみた嘉納治五郎
第3章 柔術家は雄弁家―東勝熊と異種格闘技試合を巡る物語
補論3 私は柔術狂!―ベル・エポック期パリの柔術ブーム
第4章 柔道のファンタジーと日露戦争のリアリズム―山下義韶と富田常次郎の奮戦
補論4 日本発祥か中国由来か―「日本伝」柔道を巡って
第5章 「破戒」なくして創造なし―前田光世と大野秋太郎の挑戦
補論5 「大将」と柔術・「決闘狂」と柔道―南米アルゼンチンにおける柔術や柔道の受容

武道史や柔道史には、アカデミックなものからそうじゃないものまでいろいろあるが、この本は本当にオリジナルな研究。ほとんど知られざる世界を独力で発掘している。アメリカ人が日本文化に抱く神秘性と反日本の感覚とが交錯する。また、見世物としてであったりダイエットとしてであったり、本書がつまびらかにしているこうした「大衆的な」柔術の受容や消費のされかたをみると、逆に柔道を真正なるスポーツとして世界に認めさせた嘉納治五郎の凄さが分かるね。忍術がスポーツと認められたかもしれない世界線、逆に柔道がいまの忍術的な扱いになっていたかもしれない世界線を考えてみてもいい。

[J0295/220915]

畠山理仁『コロナ時代の選挙漫遊記』

集英社、2021年。

目次
熊本県知事選挙
衆議院静岡県4区補欠選挙
東京都知事選挙
鹿児島県知事選挙
富山県知事選挙
大阪市住民投票
古河市長選挙
戸田市議会議員選挙
千葉県知事選挙
名古屋市長選挙
参議院広島県選出議員再選挙
静岡県知事選挙
東京都議会議員選挙
兵庫県知事選挙
横浜市長選挙

表紙は和田ラジオのイラストで、泡沫候補をおもしろおかしくいじるとか、その種の本かと思えばさにあらず。「候補者は育てるもの」「投票し注目することで新陳代謝を促す」と主張し、それを実践する著者の熱い姿勢が印象的。もともとウェブメディアの連載記事なので、読みやすい分量。

[J0294/220913]