岩波新書、2021年。

第一章 世界史における他者救済――イギリスの個性を問い直す
第二章 近現代チャリティの構造――歴史的に考えるための見取り図
第三章 自由主義社会の明暗――長い一八世紀からヴィクトリア時代へ
第四章 慈悲深き帝国――帝国主義と国際主義
第五章 戦争と福祉のヤヌス――二〇世紀から現在へ

イギリスの近現代史を覗いても、また街々を歩いてみても感じられるのは、この国におけるチャリティやフィランスロピー(慈善事業)の存在感の大きさ。どの街でも、チャリティ・ショップが日本のコンビニくらいあって、しかも目抜き通りにだったり、どうやって経営が成り立っているのかいつも不思議。

金澤さんは『チャリティとイギリス近代』からこの主題を追究していて、そちらも大いに啓発的だった。この最新刊には「戦争と福祉のヤヌス」という章があるけれども、いわばこの書全体の主題が「帝国と慈善のヤヌス」。歴史家らしく、しっかり慈善事業の「裏の顔」を暴いている体だけど、やっぱり最後の最後にはチャリティの可能性に惹かれているようすで、僕もそこはそう、チャリティ志向はイギリス社会最善の部分のひとつと感じる。

これも僕の積年の疑問として、チャリティ帝国のイギリスが、なぜか戦後には福祉国家としてNHSを産み育てたというところ。著者の解釈は、戦後40年はチャリティが低調な時代で、また新自由主義時代に入ってその熱が高まってきたというもの。それはそうなんだろうけど、まだイギリス社会の福祉国家的側面の謎は残っている。

最近読んだ本のなかでは、武田尚子『チョコレートの世界史』(中公新書、2010年)が、イギリスの覇権と慈善事業というキーワードで共通していて、この書と並べて読んでも良さそうだ。

[J0198/210915]