副題「パンデミックと原理主義」、講談社選書メチエ、2023年。

序章 世界の宗教復興現象――コロナ禍が宗教復興をもたらす
第1章 キリスト教(プロテスタント)――反ワクチン運動に揺れる米国
第2章 ユダヤ教――近代を拒否する原理主義者が孤立するイスラエル
第3章 ロシア正教――信仰と政治が一体化するロシア
第4章 ヒンドゥー教――反イスラム感情で軋むインド
第5章 イスラム教――ジハード主義者が天罰論拡散を図る中東・中央アジア
第6章 もうひとつのイスラム教――宗教復興の多面性を示すイスラム社会、インドネシア
終章 コロナ禍で日本に宗教復興は起きるか

新型コロナパンデミック下の世界諸地域における諸宗教の対応や反応を整理。調査に入りにくい状況下でこうした概観をするのは難しいことと思われるが、各地でのレポートを多く参照しながらまとめていて、今の世界状況の理解の助けになる。

著者は本書で、「コロナ禍に非科学的で非合理的な反応をする宗教」という一方的な理解を斥けて、たとえば災禍における心のよりどころとして働くといったポジティヴな面をもバランス良く認めようとする。それでもやはり、パンデミックの影響で、宗教をめぐる社会的断絶がより露わになった場面も多いようだ。

著者のもともとのフィールドはインドやインドネシアのようで、未読で申し訳ないが、原理主義に関する著書も出版されているらしい。「原理主義者は「解釈しない」という「解釈」をする裏返しの近代主義であるともいえる。新型コロナウイルス危機による社会状況の激変のなかで、原理主義者が永遠不変と奉じる「原理」にも、彼ら自身も無自覚のうちに新たな解釈を施しているのである」(158)。

もうひとつメモ。インドのヒンドゥー・ナショナリズムによるイスラム教徒やキリスト教徒への迫害を見ながら、「一神教は不寛容、多神教は寛容」という日本で流行った言説に違和感を覚えたという話(124)。これは藤原聖子さんも書いていたことだが(『宗教と過激思想』)、示唆に富む話。「神道ナショナリズム」や「アニミズム・ナショナリズム」のようなことだって成立しうるということ。

著者の小川さんは「あとがき」で、安倍元首相銃撃事件に触れて、それが「世俗社会の側にいる個人から」の怒りの暴発であるにかかわらず、「元首相銃撃事件によって、反社会的な問題のあるカルト組織のみならず宗教一般までをも胡散臭いものとみなし忌避する風潮が日本社会に広がるのではないか、という危惧を感じている」と、オウム事件の社会的影響の前例にも言及しながら述べている(234)。そしてそのことで、「宗教復興が進む海外諸地域との相互理解は一層難しいものとなる」のではないかと。いや、これは実際に起こっていることなのではなかろうか。

[J0348/230329]