脳の発達・進化について、最新の知見(といっても2017年当時のであるが)にもとづきながら解説。副題「発生・発達・進化の謎を解く」、ちくま新書、2017年。

1 脳の「発生」―胎児期(30週)
第1章 脳を構成する細胞の世界
第2章 始まりは「管」
第3章 脳の区画の成立
第4章 ニューロンが生まれるとき
第5章 ニューロンの移動

2 脳の「発達」―出生から成人まで(20年)
第6章 脳の配線はどのようにつくられるか
第7章 ニューロンの生存競争
第8章 生後ののうの発達
第9章 脳は「いつも」成長している

3 脳の「進化」―地球スケール(10億年)
第10章 神経系の誕生
第11章 脳の進化を分子レベルで考える
第12章 脊椎動物の脳
第13章 霊長類の脳、ヒトの脳

遺伝子は、あらかじめ決められた設計図のようなものではなく、もっと柔軟にその働きを発揮するものであることを強調。「よく「遺伝子は体の設計図である」と言われますが、遺伝子は発生の過程でだけ使われるのではありません。重要なので繰り返しますが、私たちが日々の生活を営むときにも、黙々と遺伝子たちが働いているのです」(226)。

たとえば、その活動依存性について、次のように説明している。「おおまかに言えば、胎児期の神経発生は「遺伝的プログラム」にのっとって進みますが、シナプス形成が生じて神経回路が形成されてくると、その発生はニューロンの発火、すなわち神経活動自体の刺激によっても影響を受けることになります」(133)。

本書のタイトルは、パーカーの『眼の誕生』になぞらえたものだそうだが、「霊長類の場合にも、世界を認知する手段が嗅覚から視覚へシフトしたことにより、さらにその生活様式に変化が生じたと考えられます。それは、社会性の複雑化です」(221)と述べる。「霊長類の個体は自分の所属する集団の中での位置関係を認識し、自分の行動が他者からどのように見られているのかを意識し、そのことによって相手を騙すこともできるのです。このような社会性の発達は、先に述べた視覚の発達なしには難しかったであろうと想像できます」(222)として、ロビン・ダンパーの「社会脳」仮説に言及。

[J0456/240322]