山川出版社、2025年。

序 大西信行
総論――本書を貫く視点 佐藤雄基
第1部 日本宗教史の現在
 1 縄文時代の精神文化 山田康弘
 2 仏教伝来、神仏習合をどう捉えるか――日本古代宗教史研究の進展をふまえて 吉田一彦
 3 鎌倉新仏教史観の破綻と教科書叙述 平雅行
 4 キリスト教はなぜ禁じられたのか 岡美穂子
 5 近世宗教史像の更新 上野大輔
 6 「国家神道」再考――「国家神道」像と教科書記述 平山昇
第2部 社会科の中の宗教
 1 分極化する現代世界――米国、欧州、イスラエルからみる政治と宗教 加藤喜之
 2 世界史の中の宗教――『旧約聖書』とネストリウス派を例に 長谷川修一
 3 公民教育と宗教――国際教育をもう一歩進めるために 藤原聖子
第3部 教室で語る宗教
 1 教科書記述の変遷――『詳説日本史』における「仏教」記述について 奈須恵子
 2 高校生のイスラム教への「偏見」をどう克服するか――歴史総合・世界史探究の試練 川島啓一
 3 日本史探究で宗教を読み解く――中世の神仏習合を題材として 大西信行

なるほどなるほど、これはいい企画で、こういう企画はもっとないといけない。つまり、学校教育や教科書と、学界の研究の知見とのあいだを架橋する仕事。現実問題、新書すら読めない学校教員が多いなか、ひとつのトピックに対してこれくらいの分量の説明を供給することはとても大事で、このくらいの水準のテキストで「教科書だけでなく、この辺は押さえておこう」という認識がつくれるととても良い。また、学校教員でなくても勉強になる。

人文学の側にしても、結局のところ、そのアウトプットは広い意味での教育でしかありえないのだから、学校教育との連携をリアルに想定した、こういった企画をもっと組織的・体系的に進めなくてはいけない気もする。叢書や事典を編む労力をこういった方向にふりむけるなりして。大学入学共通テストの問題をつくるときくらいのしっかりした規模の体制があってもいい。

本書をみて反省するに、専門研究ないし教科専門と教科教育のあいだがずっと抜けてきた感じがする。専門の研究者はもっと学校教育に関心をもたなくてはならないはず。教科教育は自分たちのやっていることをよく考えなおさないと(少なくとも社会科諸科目は)。人文学の社会的意義が疑われている今こそ。

[J0617/251201]