副題「子どもたちが微笑む世界へ」、山形浩生訳、NTT出版、2016年、講演やエッセイを集めた本で、原書はThe Country of First Boys, 2015。
序文 (ゴパルクリシュナ・ガーンディー)
編者まえがき
はじめに——個人的なものと社会的なもの
暦から見たインド
遊びこそが肝腎
押しつけられた矮小性
飢餓——古い苦悶と新しい不手際
自由について語る——なぜメディアが経済発展に重要か
日光その他の恐怖——学校教育の重要性
世界を分かち合う——相互依存とグローバルな正義
一位の男の子たちの国
貧困、戦争と平和
本当に憂慮すべきものとは
タゴールのもたらすちがいとは何か?
一日一願を一週間
ナーランダー大学について
解説 湊一樹 (アジア経済研究所)
インドの現実にふれたエッセイが多く、センがどんな社会状況をみすえて彼の理論をつくっているのかが分かる。
エッセイ集だけにこの本自体はさらっとした文章ばかりだが、より本格的な道徳哲学でも経済学でも、議論のための議論にならないよう、貧困や不平等の現実的解決をつねにめざして話を組みたてるセンの姿勢は読むたびに感動的。
一方で、セン自身の瑕疵ではないのだが、インドという非西洋のバックボーンをもって、学校教育、女性のエンパワーメント、討議に基づく民主主義、報道の自由、文化の多元主義といった事柄の積極的意義を正面から打ちだすセンの議論は、西欧世界の文化人にとっても受け入れやすく、ある意味で都合が良すぎる面があるのも事実である。宗教の問題についてそうだが、西欧的価値観を奉じる勢力にとって耳が痛いとか、なにかをそこにぶつけるといった面が乏しい。僕自身はセンのやりかたが好きで偉大な人だと思うが、センに満足できない人たちもいるだろうこともなんとなく分かる。戦い方はいろいろだ。
[J0625/251213]
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