ノーバート・ウィーナー、副題「動物と機械における制御と通信」、池原止戈夫・彌永昌吉・室賀三郎・戸田 巌訳、岩波文庫、2011年、原著初版は1948年、第二版は1962年。この文庫版には、大澤真幸氏が10ページ以上の解説を寄せている。
分からないながらも読んでいると、あちこちどこかで聞いたような話が。昔、工作舎の本でふれたような。当時ウィーナーがもたらしたイマジネーションの、影響力の大きさを感じる。
日本語版のまえがき/第2版への序文
第I部
序章
第1章 ニュートンの時間とベルグソンの時間
第2章 群と統計力学
第3章 時系列、情報および通言
第4章 フィードバックと振動
第5章 計算機と神経系
第6章 ゲシュタルトと普遍的概念
第7章 サイバネティックスと精神病理学
第8章 情報,言語および社会
第II部
第9章 学習する機械,増殖する機械
第10章 脳波と自己組織系
訳註/訳者あとがき/第2版への訳者あとがき/文庫版あとがき
解説「サイバネティックス:20世紀のエピステーメーの中心に」(大澤真幸)
フィードバックと恒常性=ホメオスタシスの問題。
「力学の概念は、物理学から生物学や心理学にまでは、まだ浸透していなかった。18世紀の代表的な生物学者であるリンネは収集家で分類家であり、その見解は今日の進化論者・生理学者・遺伝学者・実験発生学者とはまったく対立するものであった。・・・・・・同様に心理学においても心の内容という観念が精神の作用という考えを圧倒していた。これは、名詞が本質と考えられ、動詞がほとんどまったく重要性をもたなかった世界のことで、実体を重視したスコラ学の態度の名残ともいえよう」(244-245)。
「機械的または電気的装置によるものであっても、あるいは脳そのものであっても、大型の計算機というものは相当の電力を要し、そのすべてが消費され、熱として散らされてしまうのである」(253)。いまのAIの電力消費の問題に触れているね。ただし、エネルギー消費量と情報処理の性能が比例するわけでもないとも述べている。
社会に関するウィーナーの見方は、けっこう慎重。「共同社会の有効な情報量に関連して、国家に関するもっとも驚くべき事実の一つは、有効な恒常作業が極度の欠けていることである」(299)。そして、アメリカの自由競争市場に対する「信仰」を否定している。
報道手段の締めつけと、それによる情報の歪み。利益の多いものの優越、富裕階級への偏り、権力的野心との結びつき。「報道の体制は他の何にまして社会の向上作用に貢献しなければならないのに、権力や金のゲームに最大の関係をもっている人たちの手にそのまま引き渡されることになる。そしてこのゲームは、すでに見たように、共同社会の恒常作用に反する主たる要素の一つなのである」(305)。
サイバネティックスの社会への応用にも否定的。「精密科学におけるすべての偉大な成功は、現象が観察者からある程度以上に離れている分野で得られたのである」(306)。巨大な天体を扱う天文学、微細な粒子を扱う原子物理学。「観察者と観察される現象との結合を最小にすることが最も困難になるのは社会科学においてである。観察者の側からいえば、社会科学における観察者は彼の注意をひく現象に大きな影響を与えることができる」(307-308)。時間的にも、データが集められる期間がかぎられる。「社会科学では短い期間の統計を取り扱わなければならないし、また、観察結果の相当な部分が、観察者自身の影響によって加工されたものでないと確信をもつことができない」(309)。
「〔社会科学では〕要するに自然科学でいつも得られるものと比較しうるほど確実で意味のある情報は得られないのである。われわれはそれらを無視することはできないが、その可能性を過大に期待することもできない。好むと好まざるとにかかわらず、専門的な歴史家に用いられている〝非科学的〟な、説話的な方法にたよらざるを得ないものが、そこには多く残されているのである」(309)。
なるほどなあ、観察の問題だ。
「生物組織を特徴づけるものとわれわれが考えている現象に、つぎの二つのものがある。学習する能力と、増殖する能力である。この二つは、一見異なっているようだが、互に密接に関連している」(314)。「個体の個体発生的な学習」に対し、生殖による自然選択は「種属的、または系統発生的な学習」(314)ということができる。「種属的、個体的学習はともに、動物が自分自身を環境に適応させていく手段である」(314)。同趣旨、「学習は、個体の経験による環境への適応、すなわちいわゆる個体的学習の基礎であるのに対し、増殖は、種属的学習の基礎をなす。後者は変異や自然淘汰がはたらく対象である」(335)。
おもしろ。
「ヒトにおいて、またそれほどではないが他の哺乳類において、この個体的学習と、個人的な適応性は最高に発達している」(315)。人工の機械にとっても、学習の方が簡単で、技術的発展もずっと進んでいる。ただし、学習機会の動きは杓子定規で問題を生じうるという。増殖機械の理論についても、非線形変換器の標準形による表現を基礎に考察している。
第二版に加えられた第十章では、自己組織するシステムを、脳波の自己構成を引きあいに出して論じている。「周波数のひきこみを生じる非線型の相互作用は自己組織系を作りうることがわかった」(368)。ウィルスやがんの増殖に対する応用可能性も。
全体を通して、出してくる事例がいろいろおもしろい。
たしかにウィーナーの議論には、フィードバック機構を備えた自己組織的システムのイメージをすでに含んでいる。ただ「制御と通信」というサブタイトルもそうだし、上記の個体発生的学習の側だけをとってしまうと、ハードウェアに対するソフトウェアだけを更新していくイメージになるかもしれない。
[J0640/260126]
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