副題「サイバネティクスと冷戦期の生態学的想像力」、『現代思想』2024年7月号、191-200頁。

ウィーナーのサイバネティクスでは、熱力学第二法則=エントロピー法則が核心におかれ、その例外としての「生命」に特別な位置があたえられている。生物と機械とは、「宇宙を貫く無秩序化の傾向に逆らう『ポケット』」としてパラレルな存在とされる(192)。サイバネティクスが意識されなくとも、こうした世界観は広く現在まで影響を及ぼしている。こうした世界観に懸念を抱いていたのが、イヴァン・イリイチである。

イリイチは、生態学が管理と操作へ向かう欲望と結びついていることを懸念した。この観点からは、「宇宙船地球号」という捉え方も批判されるべきことになる。「人間が「宇宙船地球号」の構成員だとみなされるとき、環境倫理と呼ばれるものは、科学者によって設計された「生命維持システム」に奉仕する宇宙旅行者のライフスタイルを採用するかどうかという選択の問題へと矮小化することとなる」(197)。そこに規律訓練と統治の思想との結びつきがある。
〔所感〕なるほど、現在のSDGsなどにも適用可能な批判。宇宙飛行士が外からみた青い地球の鮮烈な画像とともに、こうした生態学的イメージが、強いロマンティシズムと結びついていることに注意しておきたい。

長谷川氏は、じつはイリイチの件と同形の問題意識を、ウィーナー自身も抱えていたことを指摘している。サイバネティックスとはいったい何だったかを見極めなくてはならない、「私たちはそうすることではじめて「宇宙船地球号」から下船するためのチケットを手にすることができるのである」(198)と、この論考は締められている。

[J0631/260114]