2017年、ちくま文庫、原著は1989年刊。
名古屋駅裏の中村遊郭の歴史を、十数年にわたって掘り起こす。遊郭の歴史でもあり、名古屋中村の歴史でもある。

序章 名古屋中村「新金波」にて
1章 中村遊廓との遭遇
2章 道具からみた「成駒屋」
3章 娼妓たちの人生
終章 遊廓の終焉

タイトルに偽りありで、「聞書き」とあるがたんなる聞き書きではまったくない。なにせ、取り壊される寸前の遊郭跡から、家財道具一式を買い取るところから話は始まる。その道具の使い途を推測したり、人を訪ねて確かめたり、あの手この手で調査を進めるドキュメンタリーとしても読める。

著者の師匠、宮本常一は「儂も、やっておかなくてはならんテーマ、と思うていた。じゃが、女房がこわくてな・・・・・・」と笑っていたという。著者自身も神職だとの話だし、いずれにしても腹が据わっていないとできない調査だ。テキヤに話を聞いて、遊郭への生活雑貨の納品システムや、周旋人の話にまで辿りつくくだりは、この著者にしかできない。『わんちゃ利兵衛の旅』(1984年)の世界とここで結びつくのは、劇的でもある。

この本がたどる遊郭の生活でのディティールも、いちいち興味深い。たとえばきわめてダークな話題、わざと高熱を出させて性病検査を免れる方法から、あるいは堕胎の方法にいたるまで、著者は娼妓たちへの同情とともに記録として書き残している。

[J0070/200811]