Author: Ryosuke

西谷勝也『ふるさとの原像』

小栗栖健治・久下正史編、副題「兵庫の民俗写真集」、のじぎく文庫、神戸新聞総合出版センター、2012年。

昭和30~40年代の民俗写真集。これはたまらん。兵庫県だけでも摂津・播磨・但馬・丹波・淡路とあるわけで、写真集もこれくらいの範囲のがいい。一枚一枚、写真としても資料としても質が高い。

1 民俗芸能:鬼追い、追儺式
2 民俗芸能:四季の郷土芸能
3 年中行事とまつり:共同体・ムラの祭祀
4 年中行事とまつり:イエの祭祀
5 暮らし・生業
6 景観

著者の西谷勝也(1906~1969)は、柳田國男の薫陶を受けて、高校教諭を務めながらフィールドワークを続けた人物で、主著に『季節の神々』がある。

[J0620/251203]

花房尚作『田舎の思考を知らずして、地方を語ることなかれ』

副題「過疎地域から考える日本の未来」、光文社新書、2025年。

序章 田舎の視座
第一章 田舎の視点
第二章 田舎の現在
第三章 田舎の過去
第四章 田舎の構造
第五章 田舎の調査
第六章 田舎の視野
第七章 田舎の視線
第八章 田舎の役割
結論 田舎の思考

個々の論点についてはいろいろ疑問もあるし、あんまり「田舎の思考」を実体化するのはどうかと思う。それでも、都会的なそれとは異なる思考パターン・行動パターンとその根拠を理解すべき、という主張はそのとおり。

「過疎地域対策の根本的な誤りは、過疎地域の衰退を知って、「都市部と同等にしよう」と考えたことだ。・・・・・・もうそろそろ、成長と発展を嫌う地域のあり方を認めてはどうだろう。様々な地域があってもよく、様々な地域があったほうがよいと考えてはどうだろう。」(126-127)

高齢者がほかにやることもないから所属組織での役割を保とうとするし、若者も地域のことは高齢者に任せておけばよいと考える構造。都会とちがって、過疎地の高齢者はほかにやることがない。それもそう。

「関係人口という言葉は移住を決断できない都市部の住民にとって都合がよい。その裏には、田舎のことを考えているという、免罪符としての役割が透けて見える。その根底に都心のいやらしさや、文化人のいやらしさを感じる。過疎地域で関係人口という言葉を使うのは、観光促進事業やふるさと納税の利害関係者くらいだ」(223-224)。 

 なかなか辛辣!

「過疎地域では若者であっても強い保守性と閉鎖性を持つ。親や祖父母が暮らし易いよう変化を抑制する。それは若者たちの優しさでもある。その若者に対して「地域の未来のために優しさを捨てろ」と言うのは難しい。」(240)

「私が過疎地域で暮らし始めたのは15年前だ。その間に大きな時代的変化が三つあった」(292-)。Amazonによる物流革命、格安航空会社の登場、コロナ禍によるオンラインの浸透。「これら三つの時代的変化は過疎地域の利便性を劇的に変えた。今では過疎地域での暮らしも悪くないと考えている」(293)。

 さて、やはり本書自体が「田舎との出会い」によって書かれている。そういう立場のとりかたはいいとして、「自分は田舎の思考の人間だ」あるいは「自分は(現在進行形で)都心の思考の人間だ」という自覚を持てるものなのかどうか。
 また、例のないものねだりの話になるが、「田舎の思考」の「理由」はいろいろ書いてくれているとして、その魅力や凄味を知ってもらうのでなければ、「成長と発展を嫌う地域のあり方を認めてはどうだろう」とはならないのでは。地域の若者たちは、たんに高齢者に気を遣っているだけでなく、またたんなる知識や経験だけでもなく、その生き方に凄味を感じている部分もあるのでは。筆者が批判している「地域振興」のアプローチとはちがい、黙々と「木を植える男」的な生き方をしている人はやはりそれなりの数がいて、その凄味を都会の人にも伝えることが大切なようにも思う。

[J0619/251203]

上杉正幸『案じますな、今じゃ』

山愛書院、2009年。『健康不安の社会学』の著者が、一人暮らしの高齢者26人に行ったインタビュー。とくに問題や不安を聞きだそうというのではなく、現在の暮らしを端的に訊ねて記す、地味といえばめずらしいくらい地味な本だが、なんとなく眺めてしまう。

序章 「老い」の再考
第1章 高齢者二六人の語り
第2章 高齢者の超越性
第3章 高齢者の生活の充実

例によって「迷惑をかけずに死にたい」のオンパレード。この頃の80歳~90歳だから、大正生まれが多数。一昔前の高齢者の語りで、たぶん今の高齢者はかなり雰囲気がちがっているはず。ある意味では典型的な高齢者というか、年寄りというアイデンティティを違和感なく引き受ける最後の世代という気がする。著者は香川大学の人で、ここに出てくる話にもあちこちにご当地のことが出てくる。弥谷山の話だったり、紫雲丸に乗っていた人の話だったり。

[J0618/251202]