Month: January 2021

小山聡子『もののけの日本史』

中公新書、2020年。

序章 畏怖の始まり
第1章 震撼する貴族たち―古代
第2章 いかに退治するか―中世
第3章 祟らない幽霊―中世
第4章 娯楽の対象へ―近世
第5章 西洋との出会い―近代
終章 モノノケ像の転換―現代

もののけの通史として、全体としては必ずしも新しい知見ばかりではないけれど、説話や関連語の用例をガシガシ掘り起こしていて楽しい。

幽霊の語史についての指摘は重要で、「幽霊」は必ずしも死霊を指していたわけではなかったと、先行研究の前提を批判している。たしかに古代や中世の文芸作品に幽霊の用例は少なくとも、願文や古記録にはかなり多く見られる語であるとは、著者が発見したところのもののようだ。著者は幽霊の語が有していた多義性を証するものとして、死後の法然を幽霊と呼んでいる願文中の用例を示している。

[J0126/210119]

松岡正剛『擬』

春秋社、2017年。

 抱いて/放して
 きのふの空
 エクソフォニー
 顕と冥
 予想嫌い
 レベッカの横取り
 模倣と遺伝子
 ミトコンドリア・イヴ
 歴史の授業
 アーリア主義
 猫の贈与
 お裾分けの文化
 カリ・ギリ・ドーリ
 タンタロスの罪
 「なる」と「つぐ」
 孟子伝説
 面影を編集する
 擬
 複雑な事情
 マレビトむすび

すごく久々に、もしかしたら20年ぶりぐらいにセイゴオさんの本を読んで楽しかった。その間、自分はアカデミックな世界に染まってしまったので、もちろんその目からは突っ込みを入れたくなる箇所はある。でも、いま改めて読んだら不愉快に感じるようになった、ということはなく、昔の古い知り合いみたいに安心した。

セイゴオさんには不本意かもしれないけど、内容以上に文体を読んでいるんだなと思った。これだけあちこちから引用を散りばめたら嫌みになりそうなものだが、短く簡潔な文章で畳みかけて鈍重にならない。その箇所その箇所でセイゴオさん自身が掴んでいるもの、読者をそこに連れていきたいものの有りかがはっきりしていて、引用が自己目的にならないことも、そこに与している。

頭のマッサージのように読んで、それで一節二節、脳裏に残ってふと思い出しなどすればいい。マッサージするメディア。

[J0125/210118]

リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』

長谷川貴彦訳、岩波書店、2019年、原著2018年。カリフォルニア大学やペンシルバニア大学で教えていた著者には、『フランス革命の政治文化』など、邦訳された著書も多い。ウィキペディアを覗いてみると、彼女はもともと1945年にパナマで生まれたらしい。

第1章 空前の規模で
第2章 歴史における真実
第3章 歴史をめぐる政治学
第4章 歴史学の未来

エリートのものだった歴史学が次第に民主化してきたとしつつ、歴史の捏造や修正主義、記憶の政治学、教科書論争、さらにはヨーロッパ中心主義とグローバル・ヒストリー、ジェンダー問題といった、歴史をめぐるいまいまの諸問題を概観する。

歴史学の現在を考えるには格好の小著であるが、「なぜ歴史を学ぶのか」という問いに対し原理的な考察が為されているとは言えず、むしろ今日歴史学が置かれている諸条件を見渡した本として受けとめた。原題は「歴史はなぜ重要か」History: Why It Matters とのことで、ちょっと意訳して「歴史がなぜいま問題になっているのか」ぐらいに訳した方が内容には合いそうだ。

[J0124/210112]