Month: October 2021

崔吉城『キリスト教とシャーマニズム』

ちくま新書、2021年。

序章 日本と韓国のキリスト教文化
第1章 シャーマニズムの中で生まれ
第2章 シャーマニズムの研究へ
第3章 キリスト教との出会い
第4章 儒教とキリスト教の葛藤
第5章 シャーマニズムとキリスト教の調和
終章 シャーマニズムからキリスト教へ

 読めばK-POPも韓国ドラマももっと面白くなる、という帯の文句は本当かいな、ということはさておき。韓国のキリスト教を扱った新書には、浅見雅一・安廷苑『韓国とキリスト教』(中公新書、2012年)があるが、それとはまったくテイストがちがう。本書はむしろ、シャーマニズムが主で、韓国のキリスト教も基盤にシャーマニズムがあるという理解。また本書は、シャーマニズムを信仰する親を持った韓国生まれの人類学者が、まだ経済成長前の韓国をフィールドに苦労をして調査を進めていった体験記でもある。

 基本的知識なんだろうけど、韓国では巫者は世襲で、ときに差別を受けた職能集団を形成してきたと。それが近年では、固有文化として文化財としての扱いも受けるようになってきているとの話。シャーマニズムないし民俗宗教とキリスト教の習合ということでは、池上良正『悪霊と精霊の舞台』(どうぶつ社、1991年)が想起される。

[J0209/211026]

pha 『どこでもいいからどこかへ行きたい』

幻冬舎文庫、2020年、原著原題は『ひきこもらない』で、2017年刊。

1 移動時間が好きだ
2 チェーン店があれば生きていける
3 できるだけ多くの場所に住みたい

昔はよくエッセイを読んだけど、最近はぜんぜんで、でもこの本はひさびさにしっくりきた。たぶんだけども、エッセイと言えども文章ごとにバラバラでは読めないんで、あるテーマなり思想なり、あるいは文体なりがベースにないとだめなんだろう。筆者曰く、この本のテーマは「何もなさそうな場所でも面白いことはいくらでも見つけられる」ということと、「同じ場所にいるとすぐに飽きてくるから新しい場所に移動しつづけたい」とのこと。サウナだ高速バスだと、僕の趣味とはちがうんだけど、なにかその気分に共感。

少し調べてみたら、phaさんはニートということで有名な方のよう。この種の人の発言にもいろいろあるけど、phaさんが読みやすいのは、社会生活にうまくフィットできないと言いつつも、ふつう一般の生活をディスったり攻撃したりする要素がないところ。自己啓発風にならないのも、そのへんのバランスから来るもので、それがエッセイという形式によく合っている。

[J0208/211024]

将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』

ちくまプリマー新書、2021年.

第1章 人はなぜ服従しがちなのか
第2章 忠誠心は美徳か
第3章 本当に「しかたがない」のか
第4章 私たちは何に従うべきか
第5章 どうすれば服従しないでいられるか
第6章 不服従の覚悟とは何か

将基面さんは『反「暴君」の思想史』(平凡社新書、2002年)も良かったが、本書は、中高生も意識しながら不服従や抵抗の重要さを説く。

ストレートなメッセージをきちんとぶつけて、偉い仕事だ。ただ、僕が同時に気になってしまうのは、この本を読んだ人たちの反応。僕が今いる場所の問題もあるが、思考停止の迎合主義に浸りきっているこの日本の状況で、たとえば「本当に暴力は「絶対に」いけないことなのでしょうか?」という本書の問いかけがどれだけ、どれくらいの人に響くか。どうにも否定的な想像しかできなくて辛い。そういうしかたで、「しかたない」の泥沼に足をとられかかっているのかもしれない。

[J0207/211019]