Month: February 2023

圓井義典『「現代写真」の系譜』

副題「写真家たちの肉声から辿る」、光文社新書、2022年。

第1章 土門拳と植田正治
第2章 東松照明と森山大道
第3章 荒木経惟と須田一政
第4章 杉本博司とマルセル・デュシャン
第5章 佐藤時啓と森村泰昌
第6章 畠山直哉と九〇年代以降
終章 オルタナティブなまなざし

それぞれの写真家たちに詳しい人からみたらどうか分からないが、詳しくない僕からすると、とても良くできた良書。大学での講義をもとにした本らしい。

写真家たちの思想を紹介していくつくりだが、ふたりずつ対照させながら構成していて、ポイントが掴みやすい。また、せまい写真界内で話を進めるのではなく、現代芸術の広い流れのなかで、それぞれの写真家や写真表現を位置づけているところに特徴がある。必ずしもこれら写真家個人に興味がなくても、「写真とは何か」「写真という表現形式の意味とはなにか」という問題に関する発想のあれこれを紹介した概論として読める。

たとえば、ふつう、本書に取りあげられている森村泰昌などは写真家とは呼ばない気がするけれども、写真を通じた表現を追究していることはまちがいないわけだからと、逆に納得させられる。つまり、どこかで「これは正しい写真ではない」と思っている自分自身の思い込みに気づかされる。

本書内に実際に掲載されている写真の点数は多くないので、それぞれの写真家の写真集を眺めながら読んだりすると、いっそう興が深そうだ。

[J0336/230208]

熊倉潤『新疆ウイグル自治区』

副題「中国共産党支配の70年」、中公新書、2022年。

序章 新疆あるいは東トルキスタンの二千年
第1章 中国共産党による統治の始まり 1949-1955年
第2章 中ソ対立の最前線として 1956-1977年
第3章 「改革開放」の光と影 1978-1995年
第4章 抑圧と開発の同時進行 1996-2011年
第5章 反テロ人民戦争へ 2012-2016年
第6章 大規模収容の衝撃 2016ー2021年
終章 新疆政策はジェノサイドなのか

新疆ウイグル地区における共産党による支配や弾圧の歴史および現状を描く。こういった政治上なまなましい問題を論じるのは、正確な情報を入手する困難もあれば、現実的な危険がないとも言えないし、たんへんな仕事だと思う。

新疆ウイグル地区にはムスリムがいて、とくに共産党による産児制限や不妊手術の強制がひとつの争点となってきたという。

欧米側は、再教育収容所への強制収容をはじめ、新疆ウイグル地区の人々に対する抑圧を「ジェノサイト」と見なして強く批判してきていることは、日本ではユニクロの不買運動があったことでも知られている。これらが人権侵害であることは明らかであるが、本書筆者は、「ジェノサイト」という表現が適切かどうかという問題提起を行い、むしろ「民族の改造」という表現の方が適切であると言う。筆者はそう表現してはいないが、つまりは強制的な民族同化ということだろうか。

[J0335/230207]

河島幸夫『戦争と教会』

副題「ナチズムとキリスト教」、いのちのことば社、2015年。

序 ドイツ政治史の中のプロテスタント教会
1 第一次世界大戦と教会
 (1)戦争熱に浮かされて
 (2)冷静な信仰者たち
2 ヴァイマル共和国と教会指導層
 (1)ヴァイマル共和国の政治状況
 (2)福音主義教会指導層の政治類型
3 ナチス政権の成立と教会闘争の始まり
 (1)ヒトラーとナチ党綱領
 (2)ドイツ的キリスト者の台頭
 (3)ドイツ福音主義教会憲法と帝国教会監督
 (4)青年宗教改革運動・牧師緊急同盟・告白教会
 (5)バルメン宣言
 (6)告白教会のヒトラーあて建白書
 (7)キリスト教会への弾圧
4 第二次世界大戦とドイツの教会
 (1)ドイツ・プロテスタンティズムの戦争観
 (2)ズデーテン(チェコ)危機と平和祈祷礼拝
 (3)開戦と教会の反応
 (4)戦時下の説教――福音信仰固着型の優位
 (5)戦時下の宣教――〈二王国論〉と〈キリストの王権的支配〉
5 戦時下の宗教弾圧と抵抗
 (1)ナチズムのキリスト教観
 (2)兵役問題――徴兵と志願
 (3)兵役拒否と兵役忌避
 (4)反ナチ抵抗運動と教会
 (5)ユダヤ人救援活動――グリューバー事務所
 (6)ナチス〈安楽死作戦〉への抵抗
 (7)古プロイセン合同告白教会の抗議表明
6 シュトゥットガルト罪責宣言
 (1)罪責宣言の契機
 (2)罪責宣言の成立
 (3)罪責宣言の意義

ナチズムに関する、ドイツ・プロテスタントの教会や神学者たちの姿勢や対応を描き出す。ナチズムへの抵抗や反省が中心にはなっているが、協力や従順の様子にも触れている。

100ページを少しこえるくらいの小冊子であるが、著者の河島幸夫氏がこの主題について上梓している『政治と信仰のあいだで』(2005年)、『ナチスと教会』(2006年)、『ドイツ現代史とキリスト教』(2011年)といった著作のダイジェストとして、内容は濃い。

[J0334/230206]