アーサー・リディアード、小松美冬訳、大修館書店、1993年。リディアード(1917~2004)の最初の主著は Run To Top (1962年)があるが、本書 Running with Lydiard(1983年)も、生理学的な調査研究の知見を増やしたほかは基本的な主張はかわらないという。なお、本書は2000年に第二版が出ているので、関心のある人は原著に当たってみるとよいかもしれない。
リディアードの理論は古いかもしれないが、運動生理学にもとづきながら、期分け(periodization)という発想を長距離走に持ち込んだ功績は不朽である。科学的実験や数値だけに頼るのではなく、アスリート自身の身体感覚を大事にしている点も、個人的には信用できる。
第1章 リディアード式トレーニングの運動生理学
第2章 有酸素能力を高めるマラソンコンディショニング・トレーニング
第3章 速く走るための体とフォームを作るヒルトレーニング
第4章 スピードを養成し、スタミナとスピートを協調させるトラックトレーニング
第5章 自然の中を走って、いろいろな側面から鍛えるクロスカントリー
第6章 ウォーミングアップとクーリングダウンの目的と方法
第7章 ウエアとシューズの選び方
第8章 作戦の立て方
第9章 暑い日、寒い日のランニングの注意
第10章 ランナーの食事について
第11章 ランナーの障害の予防と対策
第12章 少年・少女のランニング
第13章 女性のランニングについて
第14章 トレーニングスケジュール例
「私のトレーニングシステムのポイントは、有酸素ランニングと無酸素ランニングをバランスよく組み合わせることにある」(2)。無酸素ランニングはすぐに疲労がたまるだけでなく、不足分の酸素を補う酸素負債能力には絶対的な限界があって、それをトレーニングで引き上げることができない。したがって、有酸素能力を高めることが鍵となる。
ただし、リディアードが想定している有酸素ランニングは、最高安定状態の70~100%というレベルのもので、LSDはジョガーやランニング愛好家のものであるとする。
【無酸素トレーニング】
無酸素トレーニングのやりすぎは有酸素能力を損なうとして、「その財産を慎重に守りながら進めなければならない」(7)。無酸素トレーニングは、血液pH値を酸性にし、心理的な無気力にもつながる。無酸素トレーニングは必要であるが、「無酸素能力を一度自分の限界まで開発したら、それ以上無酸素トレーニングをする必要はなく、それは意味がないばかりか、危険ですらある」(9)。
「私の考えでは、無酸素トレーニングに必要な期間は4~5週間である。・・・・・・無酸素トレーニングは、どんな方法でやってもよい。距離やスピードなどを厳密に決める必要もない。要は、選手自身が酸素負債をかかえるような走りをして体を追い込んでいき、自分の疲労状態からもうこれで十分だと感じたときにやめればよいのである」(11)。「ということは、逆にいえば、無酸素トレーニングについて、具体的な指示をこと細かに選手に与えることはだれもできないのである」(11)。「ただし、ここで覚えておいてほしいのは、少なくとも200mはつづけて速く走らないと、全身の血液pH値を下げることはできないということだ」(12)。いや、この感覚の部分、大事とおもう。だから、選手は適切に自分自身を追い込んで、適切に自分自身の疲労を評価する能力をもたねばならない。また、無酸素能力の開発は、いつでも血液pH値を正常値に戻してからすべきであるという(65)。一度高めた無酸素能力は、週1度、50m~100mのシャープナーつまり流しを繰り返すことによって維持するのだという。
【有酸素トレーニング】
リディアードは週160㎞という目安をかかげる。しかし、「私のいう週160㎞というのは、最高安定状態に近いペースで走る距離である」(21)。疲労回復のためのジョグはこれとは別なので、総走行距離はその倍にもなりうるという。週160㎞という数字は、自分自身の体験的実験によってみつけたバランスだという。
「マラソンコンディショニング・トレーニングの期間中に行う有酸素ランニングのペースとしては、走りはじめから終わりまで一定のスピードで走り、走り終えたとき、心地よく疲れてはいるが、走ろうと思えばもう少し長く走れる、あるいはも少し速く走れたと感じるペースが最適である」(22)。トップ選手ならそれは、3分15秒/㎞というような速さのペースだと。
「より効率のよい有酸素ランニングをするには、まず自分の現時点での基礎体力、つまり、最高安定状態のレベルをみつけなければならない。それには、とりあえず自分が走れそうな時間を往復コースで走ってみるとよい。たとえば、30分ぐらいは走れそうなら、目一杯と感じるスピードよりゆっくりめのペースで気分よく走りはじめ、15分間そのペースを守って走り折り返し、来た道をそのペースをキープして走るのである。ただし、そのペースを守るために無理して頑張ってはいけない。・・・・・・そこで、次回のトレーニングではこの結果をもとに、自分のケースを調整する。走る距離が前回より長くなっても、短くなってもかまわないから、とにかく時間を基準にして、前半と後半のペースが同じになるように心がけるのだ。自分で、自分のペースを把握し、それを守るセルフコントロール力は、今後、トレーニングをすすめていくうえで、ますます要求されてくるものなので、早いうちにその力を養っておいたほうがよい」(23)。大事なのは、「体の発している信号に走りながら注意を向け、絶えずペースを有酸素ランニングの域におさめるようにすることである」(24)。
「私がアドバイスしたいのは、まずはじめに週3回〝長い〟時間走れ、ということだ。この長い時間とは、1人ひとりが自分の体力に応じて長いと感じる時間でよいのである」(24)。
【その他】
これもリディアードの特徴、負荷をかけるヒルトレーニング。ヒルスプリンギング、スティーブヒルランニング(もも上げ走)、ヒルバウンディング、ヒルストライディングといったメニューを紹介している。
ウォーミングアップ、心拍数を上げておくこと、体温を上げて筋肉を暖めること、ウォーミングアップは15分でよいと。
いまからみるとさすがに古いのではという部分もあるが、女性の長距離走の可能性を認めているなど、やはり先駆的なところも多い。訳注も多少つけてくれているが、ぜひ、最新の科学的知見や動向を併記するような編集の本があるといいな。
[J0687/260806]