Month: May 2020

安田顕『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』

2013年、幻冬舎文庫、原著2011年。俳優・安田顕が父親について書いた、まあ他愛のないエッセイ集なのだけど、出てくる地名や風景が北海道民には懐かしい。お父さんは鉄の町、室蘭の溶接工だったとのこと。「北の国」みたいな世界より、こっちの方がずっと本当の北海道なのだ。

妙に印象に残ったのは、番外編で安田顕とお父さんが座談会形式の会話をしていて、このエッセイについて語っているところ。

「最初の頃は面白くない。絶対面白くない。」
「でも、後半の方が、もうなんにもない。ネタが苦しくて。」
「いや、いい、いい、すごくいい。」
「そうなの。不思議なもんだ。」

いかにもな労働者でありながら、クラシックが趣味だったというお父さん。そういう人の審美眼。

[J0037/200506]

P.ジオベッティ『天使伝説』

鏡リュウジ訳、柏書房、1994年。もちろん実体的に読む人もいるんだろうけども、天使の表象史・文化史として成立している。「古代から現代にいたるまでの、天使の伝承、伝説を収集した一種のアンソロジーである」とのこと。

第一部 天使学入門
第二部 現代天使体験

現代世界において、地獄の観念や罪・罰の観念が衰退してきていることには数多く指摘がある。その分、善良な存在としての天使が台頭してきたとしてもふしぎはない。この本には臨死体験における天使を扱った章もあるが、むしろ、なぜ現れてくるのがなぜ友人や親族ではなく天使なのか、あるいは同じく、 天使でなくて友人や親族なのかという問いを立てることができるだろう。

[J0036/200505]

関一敏『聖母の出現』

日本エディタースクール出版部、1993年刊。

序論 近代スピリチュアリズムの起源
第1章 洞窟と泉:ルルドの出来事
第2章 天空と文字:ポンマン
第3章 光と地球:パリ・奇跡のメダル
第4章 見者と群れ
第5章 歴史と民俗

関先生の場合は、ディティールの部分と、参照文献の引っ張り方がおもしろいので、要約に適さないというのが前提で。ここでは一箇所だけメモを。

一連の聖母出現について、柳田國男などを引きつつ、著者はその物語的側面に注目しながら歴史的形成過程を分析する。「ルルドの「奇蹟」について、「実際の出来事」と「語られる出来事」の差異を綿密に検討すべきだとの批判がある。しかし、かりに両者にずれがみられるとすれば、それはむしろ、ルルドの活力=表象の生産力のありようを示すものとしてとらえうることを忘れてはならない」(p. 104)。

[J0035/200503]