副題「旅の大衆化とその系譜」、創元社、2021年。

はじめに――旅の大衆化とその系譜
Ⅰ お参りの旅
第1章 伊勢参りとおかげ参り
  1 ケンペルがみた旅人の群れ
  2 名所図会と道中案内書
  3 講と代参のシステム
  4 おかげ年の群参行動
  5 「抜け参り」と女かくれ道
第2章 元祖旅行業としての御師
  1 旅する御師
  2 みやげは伊勢暦
  3 御師邸と神楽殿
  4 心づくしの饗応
第3章 伊勢参宮から全国周遊へ
  1 ある商人一行の「伊勢参り」
  2 宿の良し悪し
  3 「観光地」での現地案内サービス
  4 「中食」に酒はつきもの?
  5 名物に旨いものなし?
第4章 先達に連れられ富士登拝
  1 遥拝から登拝へ
  2 富士行者と信仰の広がり
  3 富士講と先達
  4 案内書と御縁年
  5 「再生」への願い
第5章 鉄道と団体参拝
  1 明治の伊勢参り
  2 旅館と駅の集客活動
  3 初めての団体貸切旅行
  4 戦後復興と「団参」の賑わい
Ⅱ 学びの旅
第6章 通過儀礼としての旅
  1 羽山神社のゴンダチ
  2 羽山ごもりと七つ子参り
  3 十三参りと成年儀礼
  4 若者仲間の伊勢参り
第7章 修学旅行のあけぼの
  1 長途遠足と身体鍛錬
  2 行軍から見学へ
  3 女学生と修学旅行
  4 鮮満修学旅行の広がり
第8章 参宮と修学旅行
  1 大義名分となった参宮修学旅行
  2 みやげ物店の記録にみる旅のシステム
  3 終戦と修学旅行の復活
  4 参宮から見学へ
  5 あこがれの「あおぞら号」
第9章 添乗員の活躍
  1 旅行業と添乗員
  2 「集約臨」と必需品あれこれ
  3 各地からの定番コース
  4 教職員の研修旅行
  5 修学旅行専用電車の登場
Ⅲ 親睦の旅
第10章 戦後復興と団体旅行
  1 慰霊の旅からの再出発
  2 少なかった旅行機会
  3 メーカーの招待旅行
  4 信用金庫の積立旅行
  5 国鉄共催の周遊旅行
第11章 海外旅行の大衆化
  1 戦後の海外旅行再開と「自由化」
  2 「自由化」まもないころのチャーター旅行
  3 定番みやげとショップビジネス
  4 添乗のスペシャリスト養成
  5 驚きのシルバーツアー
第12章 新婚旅行とアンノン族
  1 旅する女性の二極化
  2 新婚旅行の大衆化
  3 BGの旅
  4 ディスカバー・ジャパンとアンノン族
第13章 地域と旅行業①――昭和初期創業の「山形旅行倶楽部」
  1 洋品店から旅行業へ
  2 戦前のバス旅行
  3 参拝団からの戦後復活
  4 臨時列車の団体旅行
  5 「わが仕事に悔いなし」
第14章 地域と旅行業②――信州伊那の「全日本株式会社」
  1 伊那自動車の「観光貸切課」
  2 「常会」から温泉旅行へ
  3 峠越えの「一泊一夜行」
  4 「諏訪湖を買う!」
  5 小学生たちからの贈り物
  6 この道六〇年の「添乗哲学」
おわりに――日本文化のなかの団体旅行

著者は民俗学の方のようで、以前は旅の文化研究所に所属して『旅と観光の年表』(2011年)の編纂に関わったとのこと。本書は団体旅行の歴史を扱って、総覧的な記述のなかに、著者自身による調査や聞き取りの成果が織り交ぜてあって充実した内容になっている。

どの章もおもしろいのだけど、とくに戦後のことなどは、点として、断片的にあれこれ年配の方から聞いたり、古い映画なんかで見たことのある場面が、線として繫がっていく感覚。バスでの社員旅行であったり、添乗員の苦労であったり、お土産のジョニ黒であったり。江戸時代から昭和にいたる「日本人の生活」の流れを知ることができると同時に、移行期としての平成を経て、大きな断絶が生じたことを感じるところでもある。

[J0376/230625]