平井呈一訳、恒文社、1975年。『仏の畑の落ち穂』(Gleanings in Buddha-fields. 1897)と『異国風物と回想』(Exotics and Retrospectives. 1898)の合本版。

全面的に、八雲の「心霊的遺伝」「心霊的進化」の思想が散りばめられている。これらの思想を耽美的に展開する八雲という人の感覚が、だいぶ分かってきた。

もっとも印象的な八雲の作品に、Ghostly Japan の巻頭に置かれている「破片」がある。講談社文庫版の名作選集『怪談・奇談』でも読むことができる小品。本書所収「富士の山」は「破片」の舞台装置の、「環中語」は「破片」を支える思想の解説として読むことができる。「破片」は八雲の精神異常を示しているという解釈があったそうだが、これらの作品とあわせて読めば、けっしてそうではないことが分かる。一方、驚異に対する耽美的かつ神秘主義的なのめり込み方はたしかにある。『怪談』など八雲の再話物語の魅力もここに関係していて、大きなポイントなのは、輪廻的世界観を描いても、仏教説話の教化の語りから完全に離れているところなのだ。

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