Author: Ryosuke

田野登『大阪のお地蔵さん』

北辰堂、1994年。アマチュア郷土史家のひとが地方の石造物の分布をまとめた冊子はよくあって、それはそれで楽しいのだが、本書はその水準をこえた充実の一冊。というのは、ていねいな聞き取り調査のもとに、大阪のお地蔵さんを探索している点。祭祀主体の分類と数などの情報もある。民俗調査の経験も豊富なかたの模様。

大阪に特殊な地蔵信仰の濃さもわかるし、地蔵に対する民俗信仰の特徴一般についても知ることができる。

序章 暮らしに生きるお地蔵さん
第1章 大阪のお地蔵さんの歴史
第2章 お地蔵さんの民俗
第3章 〈平成版〉大阪地蔵十一ヵ所巡り

[J0603/250903]

田中洋平『住職たちの経営戦略』

副題「近世寺院の苦しい財布事情」、吉川弘文館、歴史文化ライブラリー、2025年。

現代につながる江戸の仏教―プロローグ
近世寺院とはなにか
 仏教を取り巻く社会環境
 寺檀制度の外側
苦しい台所事情
 禁制宗派の生きる道
 進む過疎、消える住職
 住職の引き継ぎも金次第
寺の経営戦略と地域
 寺院資産は誰のものか
 知名度を上げろ
近世寺院が語るもの―エピローグ

江戸時代の仏教というと、寺請制度のもとにある葬祭寺院だけが取りあげられがちだが、その外にある祈禱寺院が数多く存在したという。たとえば、関東における真言宗寺院のデータで言うと、葬祭寺院が18%に対して祈禱寺院の数は82%におよぶという。

その祈禱寺院の経済事情。「原則として、寺請や葬祭を執行することができない住職によって営まれる祈禱寺院は、檀家に依存するのではなく、所持耕地からの地徳によってその経営を維持していたことが明らかである。・・・・・・俯瞰すれば、祈禱寺院の住職は、地徳による経済基盤を確保し、その補完によって宗教活動を展開していたと考えられよう」(94-95)。

[J0602/250823]

辻田真佐憲『「戦前」の正体』

副題「愛国と神話の日本近現代史」、講談社現代新書、2023年。

最近、SNSで「愛国ファンタジー」という表現をみかけて、なるほどなあと思ったが、本書はそうした愛国ファンタジーの出自をたどる一冊といえる。筆者はおそらく、そうしたファンタジーを全否定するつもりはない、と言い加えるだろうけども。話としてはそういうことなんだけど、うんちくがみっちり。

第1章 古代日本を取り戻す:明治維新と神武天皇リバイバル
第2章 特別な国であるべし:憲法と道徳は天照大神より
第3章 三韓征伐を再現せよ:神裔たちの日清・日露戦争
第4章 天皇は万国の大君である:天地開闢から世界征服へ
第5章 米英を撃ちてし止まむ:八紘一宇と大東亜戦争
第6章 教養としての戦前:新しい国民的物語のために

「大日本帝国を「神話に基礎づけられ、神話に活力を与えられた神話国家」と定義したうえで、戦前を五つの神話にもとづく物語に批判的に整理した。その物語とは、「原点回帰という罠」「特別な国という罠」「祖先より代々という罠」「世界最古という罠」「ネタがベタになるという罠」の五つである」(276-277)。

「国体にせよ、三種の神器にせよ、近代国家を急造するための方便ではなかったか。明治の指導者たちは神話を一種のネタとわきまえたうえで、迅速な近代化・国民化を達成するために、あえてそれを国家の基礎に据えて、国民的動員の装置として機能させようとした。その試みはみごとに成功して、日本は幾多の戦争に勝ち抜き、列強に伍するにいたった。しかるに昭和に入り、世界恐慌やマルクス主義に向き合うなかで、神話というネタはいつの間にかベタになり、天皇や指導者たちの言動まで拘束することになってしまった」(269)。

[J0601/250822]