Author: Ryosuke

『天地始まりの聖地:長崎外海の潜伏・かくれキリシタンの世界』

松川 隆治・大石 一久・小林 義孝・長崎外海キリシタン研究会編、批評社、2018年。長崎市出津のド・ロ神父記念館にて購入。

はじめに――天地始まりの聖地・外海(大石一久)
特別再録 かくれキリシタン紀行(谷川健一)
1  天地始まりの聖地・長崎外海―─潜伏キリシタンとその時代(松川隆治)
コラム1. 松川隆治先生と外海潜伏かくれキリシタン(西田奈都)
コラム2. 「枯松」と墓標(大石一久)
2  外海のキリシタン世界―─「天地始之事」、「バスチャン暦」にみる一考察(児島康子)
コラム3. なぜ「天地始之事」は伝えられたのか(西田奈都)
3  かくれキリシタン信仰の地域差について(中園成生)
4  大村藩と深堀領飛び地の境界(松川隆治)
5  「元和八年三月大村ロザリオ組中連判書付」の地名と人名の図(解説)(長瀬雅彦)
6  外海地方のキリスト教関連遺物(浅野ひとみ)
7  野中騒動と聖画(岡美穂子)
8  外海の文化的景観とその価値(柳澤礼子)
9  外海の潜伏キリシタン墓―─佐賀藩深堀領飛び地六カ村と大村藩領の潜伏キリシタン墓の比較(大石一久)
コラム4. 松崎武さんのこと(松尾潤)
10  新天地を求めて―─外海から五島、そして新田原へ(大石一久)
特別再録  隠れキリシタン発見余聞(皆川達夫・田北耕也)
あとがきにかえて――長崎と河内をつなぐキリシタン世界(小林義孝)

論文集で、冒頭の谷川健一の文章と、特別採録の対談は既出のものを再録。『天地始之事』とは、長崎・外海地区など長崎県の潜伏キリシタンに伝えられてきた、旧約聖書のエピソードがモチーフになった物語。

とくに意義深いのは、隠れキリシタン研究を拓いた田北耕也の調査体験談を特別再録した「隠れキリシタン発見余聞」で、氏と姉崎正治との交流のことや、昭和のはじめごろの、ひっそりと信仰を伝えてきた人々の様子をうかがい知ることができる。

田北耕也(1896~1994)は、教員の経験を経てから、九州帝国大学文学部で学び直した人とのことで、田北に遅れて『隠れキリシタン』を著した古野清人(1899~1979)との関係は分からないが、ちょうど入れちがいくらいのかんじか。田北の主著、『昭和時代の潜伏キリシタン』(日本学術振興会、1954年)は、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能(要登録・ログイン)で、『天地始之事』についても記載。彼が教鞭を執った南山大学ライネルス中央図書館では、著作リストを作成して公開している。>南山大学「カトリコス」

[J0435/231213]

渡名喜庸哲『現代フランス哲学』

ちくま新書、2023年。

1 構造主義とポスト構造主義
 第1章 構造主義を振り返る
 第2章 ポスト構造主義
2 転換点としての八〇年代
 第3章 ポストモダン社会か新自由主義社会か
 第4章 〈政治的なもの〉の哲学
 第5章 〈宗教的なもの〉の再考
3 科学と技術
 第6章 科学哲学
 第7章 技術哲学
4 変容する社会
 第8章 ジェンダー/フェミニズム思想
 第9章 エコロジー思想
 第10章 労働思想
5 フランス哲学の最前線
 第11章 哲学研究の継承と刷新
 第12章 フランス哲学の射程

ざーっとひろく現代フランス哲学を見渡した一冊で、その層の厚さにあらためて驚かされる。そして、こうした概観ができてしまう著者の力量とに。

「おわりに」では、現代フランス哲学者たちのアプローチについて、三つ(ないし四つ)の類型を立てている。「デリダ型」は、二項対立の脱構築を志向するアプローチ。第二の「フーコー型」はさらに2種類あって、ひとつは「知の考古学」型ないし科学認識論型、もうひとつは生権力/統治性論。「ドゥルーズ型」は、反人間主義・反主体主義の立場に立つネットワーク/リゾーム型の発想のもの。最後に、全体を貫く横串として「現象学型」があるとのこと。

[J0434/231212]

松尾龍之介『小笠原諸島をめぐる世界史』

弦書房、2014年。

第1章 小笠原諸島の発見
第2章 日本人の大航海時代
第3章 「無人島」探検
第4章 「無人島」から「ボニンアイランド」へ
第5章 太平洋の世紀
第6章 ペリー提督の小笠原
第7章 幕末の小笠原

近世まで無人島だった小笠原諸島が、太平洋を外国船が行き交う時代になって、歴史の激流に放り込まれた近世・近代。そのなかで「小笠原」という名称が定着するにいたったが、本書によれば、最初にこの島への探検航海を成功させたのは、末次茂朝と嶋谷市左衛門という人物で、河村瑞賢が西回り航路を確保した頃と同時代のこと、家綱の幕府の意向があったらしい。

その後、島は長らく放棄される状態になり、1830年、アメリカ人ナサニエル・セボリーらの多国籍グループが、ホノルル経由で父島に入植。外国諸列強がこれら島々に目をつけはじめてから、幕府が小笠原島を「奪還」しようとオランダから購入した咸臨丸を派遣したのが1862年。小笠原の開拓にも貢献した咸臨丸・朝陽丸・千秋丸の乗組員たちは長崎海軍伝習所や築地海軍操練所で学んだ人たち。彼らは当然、旧幕府の下にいた人たちで、多くの人が幕府瓦解のあとは榎本海軍に参加して戦死したりしたとのことである。

著者の松尾龍之介さんの本職は漫画家で、在野の歴史家とのこと。本書は一般の郷土史家の範疇をこえた、充実したすばらしい仕事。

[J0433/231211]