Author: Ryosuke

高橋雅英「中東の原子力発電市場におけるロシア」

副題「燃料供給国としての強み」、『中東研究』547号、2023年度 Vol.1、94-103頁。

https://www.meij.or.jp/publication/chutoukenkyu/2023_01.html

たまたま目を通したけど、知らないことばかりで勉強になった。中東で原子力発電の導入が加速していること、そこにロシアがウラン産出国およびウラン濃縮技術保有国として存在感を示していること、実際にトルコやエジプトではロシアが原発建設を請けおったこと、ウクライナ戦争に関する西側諸国による制裁対象にも原子力産業は対象に入れられないことなど。

10頁ほどにスパッとまとめられたレポートなので、僕のようなど素人にも読みやすくて助かる。

[J0402/230919]

神島二郎『近代日本の精神構造』

岩波書店、1961年。

序説 問題の所在
第一部 天皇制ファシズムと庶民意識の問題
第二部 「中間層」の形成過程
第三部 日本の近代化と「家」意識の問題

神島は、自ら軍隊生活と敗戦を経て、天皇制と戦争の問題に向き合わざるをえなかった人物。日本的な近代化の「歪み」という問題は、この頃の知識人共通のものだったように思うが、今はもう放置されている感。

神島は、〈一系型家族〉と結びついた〈第一のムラ〉が崩壊する中、その不安を吸収する形で、明治以降の近代日本が原理としたのは〈第二のムラ〉であり、その基軸としての天皇制であったと見る。そこでのふるさととは実は「回想の世界」のものでしかない〈第二のムラ〉から帰結するものは、従来型の「家」でもなく、西洋的な個人主義でもなく、〈独身者本位〉の社会構成にすぎないのだいう。

天皇制ファシズムとも特徴づけられている近代日本の社会原理は、従来の「家」意識を否定するのではなく、そうした「家」意識に根ざしつつそれを超越・離脱するようなしかたで成立したとみるところがポイント。

ハーンの記述から、戦地へ出征していく青年の心理についてこのように述べる。「まことに、青年の言葉には、「家」意識のすべての特徴が見出される。子孫の追慕、家名の保持、供養の永続、死後の共生、どれひとつとして「家」意識のあらわれでないものはない。ただ違うのは、第一には家産の保持や家業の永続が欠けていることであり、第二には記念碑の建設や国民の崇敬を信じて「天皇陛下の御為に死にたい」といっている点である。そこでは、個人性への強い関心が伏在しており、国家との結びつきによって「家」からの離脱がなされている。それは、「家」の制度および生産形態を正面から否定するものではなく、まさに離脱によって個人性への関心を充足させたものと考えられる」(314)

現在は、戦時体制をその当時あるいはその少し前段階のスパンからのみ捉える見方が優勢で、より以前からの変容をたどったこの種の議論は乏しくなってしまったが、やはり必要。ただし、神島の議論の難点は、「自然村」という言葉に示されているように(実際にはこの言葉には複雑なニュアンスが込められているにせよ)、「明治以前」の日本の社会秩序や宗教(とくに神道)を固定的・超歴史的に捉えすぎているところ。その意味では、丸山真夫から安丸良夫のラインの議論によって修正されなければならないだろう。そういえば、安丸良夫は、家の観念について何を語っていたのだっけ。

[J0401/230914]

森義一「『村下』の話」

飛騨考古土俗学会『ひだびと』第11年第2号、1943年、pp. 27~28。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1491932/1/15

村下とは、たたら製鉄で責任者として総指揮を行う職人。1943年当時の雲伯地方では、8~9名が生き残っていたとのこと(89人ではないと思うが)。たたら製鉄は大正時代に一度消滅するが、戦時下にまた復活操業が行われる、そのときの話。

「「村下」は従つて会社にとつて、絶対必要な存在なので随分大切にする、山男に不相当な程の高給を支給する、しかも会社の宴会などには社長より上席に据はる、其の上食費は一切会社持ちである、ところが朝から刺身が入り魚の向付を要する、晩酌は言はずもがなである」(28)・・・・・・といった調子の記述が続き、「会社に取つては頗る厄介な存在」であると。

こうして困った「八雲製鋼会社の井原専務」は、各種の伝統を破って、玉鋼の生産方法を編みだしたのだと。「茲に二千余年に亘り秘められた「村下」の技術の伝統をも打破して、茲に戦時下軍刀資材の増産に邁進している。斯くて「村下」は、現在の八九人を最後として、此の世から姿を没することとなつた」(28)。

誇張もありそうだけど、はじめて聞く興味深い話。なお、その後実際に村下の伝統は絶えかかった時期もあったが、現在は、木原明さんとその弟子の方がその火を保っておられる。

[J0400/230912]