Author: Ryosuke

藪耕太郎『柔術狂時代』

副題「20世紀初頭アメリカにおける柔術ブームとその周辺」、朝日選書、2021年。

第1章 熱狂のとば口―ジョン・オブライエンと20世紀初頭のアメリカ
補論1 世界大戦と柔術―リッシャー・ソーンベリーを追って
第2章 柔術教本の秘密―アーヴィング・ハンコックと「身体文化」
補論2 立身出世と虚弱の克服―「身体文化」からみた嘉納治五郎
第3章 柔術家は雄弁家―東勝熊と異種格闘技試合を巡る物語
補論3 私は柔術狂!―ベル・エポック期パリの柔術ブーム
第4章 柔道のファンタジーと日露戦争のリアリズム―山下義韶と富田常次郎の奮戦
補論4 日本発祥か中国由来か―「日本伝」柔道を巡って
第5章 「破戒」なくして創造なし―前田光世と大野秋太郎の挑戦
補論5 「大将」と柔術・「決闘狂」と柔道―南米アルゼンチンにおける柔術や柔道の受容

武道史や柔道史には、アカデミックなものからそうじゃないものまでいろいろあるが、この本は本当にオリジナルな研究。ほとんど知られざる世界を独力で発掘している。アメリカ人が日本文化に抱く神秘性と反日本の感覚とが交錯する。また、見世物としてであったりダイエットとしてであったり、本書がつまびらかにしているこうした「大衆的な」柔術の受容や消費のされかたをみると、逆に柔道を真正なるスポーツとして世界に認めさせた嘉納治五郎の凄さが分かるね。忍術がスポーツと認められたかもしれない世界線、逆に柔道がいまの忍術的な扱いになっていたかもしれない世界線を考えてみてもいい。

[J0295/220915]

畠山理仁『コロナ時代の選挙漫遊記』

集英社、2021年。

目次
熊本県知事選挙
衆議院静岡県4区補欠選挙
東京都知事選挙
鹿児島県知事選挙
富山県知事選挙
大阪市住民投票
古河市長選挙
戸田市議会議員選挙
千葉県知事選挙
名古屋市長選挙
参議院広島県選出議員再選挙
静岡県知事選挙
東京都議会議員選挙
兵庫県知事選挙
横浜市長選挙

表紙は和田ラジオのイラストで、泡沫候補をおもしろおかしくいじるとか、その種の本かと思えばさにあらず。「候補者は育てるもの」「投票し注目することで新陳代謝を促す」と主張し、それを実践する著者の熱い姿勢が印象的。もともとウェブメディアの連載記事なので、読みやすい分量。

[J0294/220913]

酒井信雄『日本人のひるめし』

中公新書、2001年。2019年に吉川弘文館から復刊されている模様。

第1章 「ひるめし」の誕生
第2章 弁当の移り変わり
第3章 給食と食生活への影響
第4章 外食の発達
第5章 「ひるめし」と麺類
第6章 国民食のカレーライス
終章 「ひるめし」の行方

著者がプロの研究者ではないことが良く働いている面もあって、さらっと読める。雑学的におもしろい話、気づきのある話も多い。典拠はひととおり示しているので、そこは安心。

日本の外食は江戸時代からはじまったとあるが、直感としてはそれはないだろうという気がする。ほんとうに中世に外食はなかったのだろうか? ただ、外食を卑しむ意識がかなり重要な規制として働いてきたことはありそうだ。現代の話としても、いま住んでいる松江では、卑しまれることこそないけども、他の都市に比べると外食は「ふつうではない」といううっすらとした雰囲気を感じるときがあるのだな。それは、町のつくりや店のたたずまいから感じられる雰囲気で、立ち食いそばや牛丼屋などが立ち並ぶ、東京などとはちがう感じ。

[J0293/220912]