Author: Ryosuke

岡真理『ガザとは何か』

副題「パレスチナを知るための緊急講義」、大和書房、2023年。読んでいて苦しくなる内容の、告発の本だが、読まねばならない本。

■第1部 ガザとは何か
4つの要点/イスラエルによるジェノサイド/繰り返されるガザへの攻撃/イスラエルの情報戦/ガザとは何か/イスラエルはどう建国されたか/シオニズムの誕生/シオニズムは人気がなかった/なぜパレスチナだったのか/パレスチナの分割案/パレスチナを襲った民族浄化「ナクバ」/イスラエル国内での動き/ガザはどれほど人口過密か/ハマースの誕生/オスロ合意からの7年間/民主的選挙で勝利したハマース/抵抗権の行使としての攻撃/「封鎖」とはどういうことか/ガザで起きていること/生きながらの死/帰還の大行進/ガザで増加する自殺/「国際法を適用してくれるだけでいい」

■第2部 ガザ、人間の恥としての
今、目の前で起きている/何度も繰り返されてきた/忘却の集積の果てに/不均衡な攻撃/平和的デモへの攻撃/恥知らずの忘却/巨大な実験場/ガザの動物園/世界は何もしない/言葉とヒューマニティ/「憎しみの連鎖」で語ってはいけない/西岸で起きていること/10月7日の攻撃が意味するもの/明らかになってきた事実/問うべきは「イスラエルとは何か」/シオニズムとパレスチナ分割案/イスラエルのアパルトヘイト/人道問題ではなく、政治的問題

■質疑応答
ガザに対して、今私たちができることは?/無関心な人にはどう働きかければいい?/パレスチナ問題をどう学んでいけばいい?/アメリカはなぜイスラエルを支援し続けるのか?/BDS運動とは何?

■付録
もっと知るためのガイド
パレスチナ問題 関連年表

「「ハマースとは何か」、ではなく、むしろ問うべきは、「イスラエルとは何か」だと思います。イスラエルとは何か、どのように建国されたのか、それがこの問題の根っこにある原因です」(168)。問題は「イスラエル」であって、ユダヤ人とも一緒ではない。ユダヤ人の中にも、イスラエルへの批判の声があるからである。

著者は、パレスチナのことを学ぶにつれ、日本における植民地主義やレイシズムの問題に出会うことになったといい、そういった問題の広がりも本当だろうが、個人的には、SNSやネットといったメディアをめぐる問題――これだけ情報が溢れているにもかかわらず、あるいはそれだけに意図的・非意図的に問題の本質を攪乱させるニュースや情報が蔓延している状態――が、このガザ問題に向きあうことを難しくしている条件として気にかかっている。
[J0458/240415]

桜井啓子編『イスラーム圏で働く』

副題は「暮らしとビジネスのヒント」となっているけど、イスラーム圏各国における現地体験の読み物集としてとてもおもしろい。いい企画、良書。岩波新書、2015年。

第1章 イスラームの懐に飛び込む―湾岸諸国
第2章 アラブとの付き合い方―アラブ諸国
第3章 誇り高きペルシアの人びと―イラン
第4章 西洋に最も近いイスラーム圏―トルコ
第5章 イスラーム?それとも地域の風習?―南アジア
第6章 イスラームとの新しい付き合い方―東南アジア、そして日本

イスラームとしての共通性も、お国ごとの事情のちがいも、それぞれの体験談からうかがうことができる。ほとんどが日常生活内の話だが、1990年湾岸危機のときにクウェートでイラク軍に拉致された竹内良知さんのお話は、歴史的な証言でもある。

いまは、YouTube などで海外諸国を紹介する動画も多く、そちらはそちらで楽しいが、この本の語り手の方のような、長い期間の体験にふれるのには活字という媒体が効果的であると改めて感じる。

[J0457/240329]

大隅典子『脳の誕生』

脳の発達・進化について、最新の知見(といっても2017年当時のであるが)にもとづきながら解説。副題「発生・発達・進化の謎を解く」、ちくま新書、2017年。

1 脳の「発生」―胎児期(30週)
第1章 脳を構成する細胞の世界
第2章 始まりは「管」
第3章 脳の区画の成立
第4章 ニューロンが生まれるとき
第5章 ニューロンの移動

2 脳の「発達」―出生から成人まで(20年)
第6章 脳の配線はどのようにつくられるか
第7章 ニューロンの生存競争
第8章 生後ののうの発達
第9章 脳は「いつも」成長している

3 脳の「進化」―地球スケール(10億年)
第10章 神経系の誕生
第11章 脳の進化を分子レベルで考える
第12章 脊椎動物の脳
第13章 霊長類の脳、ヒトの脳

遺伝子は、あらかじめ決められた設計図のようなものではなく、もっと柔軟にその働きを発揮するものであることを強調。「よく「遺伝子は体の設計図である」と言われますが、遺伝子は発生の過程でだけ使われるのではありません。重要なので繰り返しますが、私たちが日々の生活を営むときにも、黙々と遺伝子たちが働いているのです」(226)。

たとえば、その活動依存性について、次のように説明している。「おおまかに言えば、胎児期の神経発生は「遺伝的プログラム」にのっとって進みますが、シナプス形成が生じて神経回路が形成されてくると、その発生はニューロンの発火、すなわち神経活動自体の刺激によっても影響を受けることになります」(133)。

本書のタイトルは、パーカーの『眼の誕生』になぞらえたものだそうだが、「霊長類の場合にも、世界を認知する手段が嗅覚から視覚へシフトしたことにより、さらにその生活様式に変化が生じたと考えられます。それは、社会性の複雑化です」(221)と述べる。「霊長類の個体は自分の所属する集団の中での位置関係を認識し、自分の行動が他者からどのように見られているのかを意識し、そのことによって相手を騙すこともできるのです。このような社会性の発達は、先に述べた視覚の発達なしには難しかったであろうと想像できます」(222)として、ロビン・ダンパーの「社会脳」仮説に言及。

[J0456/240322]