Author: Ryosuke

戸谷洋志『ハンス・ヨナスの哲学』

角川文庫、2022年。『ハンス・ヨナスを読む』2018年を改稿・加筆したものとのこと。

第一章 ヨナスの人生
第二章 テクノロジーについて―技術論
第三章 生命について―哲学的生命論
第四章 人間について―哲学的人間学
第五章 責任について
第六章 未来への責任の基礎付け
第七章 神について―神学
おわりに
補 論 『存在と時間』とヨナス
読書案内

ハンス・ヨナスを読んだことがないので、ヨナス理解としてどれくらい適切なのかが分からないのだが・・・・・・。そこがちゃんとしているのなら、これはすごい良書では。分かりやすくて、ヨナスの哲学に興味が湧く記述。トピックも幅広く、きっとここがヨナス哲学の分かりにくいポイントなんだろうというところも、むりにあれこれ解説しすぎずに、それとして知ることができる。戸谷さんという方、才気走った華麗な文体というタイプではないけど、すごい書き手なんじゃないのかな。

[J0275/220625]

阿部真大『地方にこもる若者たち』

副題「都会と田舎の間に出現した新しい社会」、朝日新書、2013年。

現在篇 地方にこもる若者たち
 若者と余暇―「ほどほどパラダイス」としてのショッピングモール
 若者と人間関係―希薄化する地域の人間関係
 若者と仕事―単身プア/世帯ミドルの若者たち
歴史篇 Jポップを通して見る若者の変容
 地元が若者に愛されるまで
未来篇 地元を開く新しい公共性
 「ポスト地元の時代」のアーティスト
 新しい公共性のゆくえ

9年前のこの本を、なぜかこのタイミングで読む。前半は岡山市での若者調査、後半はJポップの歌詞分析。

「商店街とは、若者にとって、地域社会における人間関係を学ぶ場所であるとともに、「よく分からない人」に出会わないと生活必需品を手に入れることができない「ノイズ」だからの場所でもあった」(52)

「もともとヒップホップとは黒人音楽で、仲間との絆や地域性を重視してきた音楽であった。だから、00年代、日本の若者文化のなかで「地元」のもつ意味が大きくなるに従って、ヒップホップの人気が高まっていったことは必然であった」(136)

「もはや若者たちに、そこから外れなくては生きていけないほどに強力に画一的な生き方を押しつけてくる「完成された社会」はない。しかしそこでは、「好きに生きていい」と言いつつ、「自己責任」の名のもと若者たちをほったらかしにしている現実がある」(170)

「みんなで議論するより有能な指導者に任せたほうが社会は良くなるか?」という質問に対する回答より、「20代の女性は「みんなで議論をすること」に対して極めて肯定的な姿勢を示しているのに対し、20代の男性は真逆の姿勢を示しているのである。現在の若者は、男性は極めて権威主義的であり、女性は極めて反権威主義的な傾向があると考えられる」(176)

「集団の成員の多様性の高まりにより、「空気を読む」ことは次第に困難になりつつある。だから、若者たちは「空気を読む」ことに必死になる。……今の若者は、多様性の高まった、「決まった空気」がない状態を生きている。まずは、このことを理解しなくてはならない」(181)

[J0274/220625]

石井研士『日本人の一年と一生』

副題「変わりゆく日本人の心性」、春秋社、2020年。2005年に出版されたものの改訂新版。

第1章 年中行事
 正月:「めでたさ」の現在
 節分:「鬼は外」の声は響かず
 バレンタインデーとホワイトデー:日本人が作ったキリスト教行事
 雛祭りと端午の節句:聖性のゆくえ
 母の日と父の日:核家族化の中で
 七夕:短冊に願いを込めて
 お盆:ご先祖様のゆくえ
 ハロウィン:ハロウィンは定着するか
 クリスマス:日本人のキリスト教度
第2章 通過儀礼
 出産と誕生日:幸せにつつまれて魂は付着したのか
 七五三:家族の記念日
 成人式:私たちはいつ大人になれるのか
 二分の一成人式・立志式:子どもと大人のあいだで
 結婚式:私たちの幸せの形
 厄年と年祝い:延びる寿命とライフシフト
 変容する死の儀礼:「死にがい」を取り戻すことはできるのか
最終章 現代日本の儀礼文化再考

現代日本の年中行事の現実を、奇をてらうことなく記述しているところで実は意外と類書が見あたらない良書。それは著者が、民俗学ではなく、宗教学・宗教社会学という立場からこれら主題に当たっているからだろう。民俗学の苦境が叫ばれてから長く、「実はこんなところに隠れている民俗的心性」みたいな論考ばかりが多いところで(それはそれでおもしろいけども)、もっと率直に現実を捉えるアプローチ。著者自身も、クリスマスの項でこのように述べている。「管見の及ぶ範囲では、〔民俗学では〕近年の研究成果にもクリスマスへの言及は見られないのである。クリスマスは民俗学において無視されている、というよりは、民俗学が年中行事の中にクリスマスを取り込めない、といった方が正確であると思われるのである」(107-108)。

「戦後、伝統的な通過儀礼は、年中行事と同様に、しだいに消失していった。儀礼は地域社会から離脱し、「家」ではない「家族」を母体とした儀礼へと変容していく。儀礼を支える母体の変化は、儀礼自体の意味の変容を示すものである。伝統的な通過儀礼は、表面上の形態を変えていく変化ではなく、その意味自体を変容させたのである。」(139-140)

じゅうぶんに読みやすい本であるが、この本の内容をさらに分かりやすくしたテキストブックに、石井研士『現代日本人の一生』(弘文堂、2022年)がある。

[J0273/220618]