副題「変わりゆく日本人の心性」、春秋社、2020年。2005年に出版されたものの改訂新版。

第1章 年中行事
 正月:「めでたさ」の現在
 節分:「鬼は外」の声は響かず
 バレンタインデーとホワイトデー:日本人が作ったキリスト教行事
 雛祭りと端午の節句:聖性のゆくえ
 母の日と父の日:核家族化の中で
 七夕:短冊に願いを込めて
 お盆:ご先祖様のゆくえ
 ハロウィン:ハロウィンは定着するか
 クリスマス:日本人のキリスト教度
第2章 通過儀礼
 出産と誕生日:幸せにつつまれて魂は付着したのか
 七五三:家族の記念日
 成人式:私たちはいつ大人になれるのか
 二分の一成人式・立志式:子どもと大人のあいだで
 結婚式:私たちの幸せの形
 厄年と年祝い:延びる寿命とライフシフト
 変容する死の儀礼:「死にがい」を取り戻すことはできるのか
最終章 現代日本の儀礼文化再考

現代日本の年中行事の現実を、奇をてらうことなく記述しているところで実は意外と類書が見あたらない良書。それは著者が、民俗学ではなく、宗教学・宗教社会学という立場からこれら主題に当たっているからだろう。民俗学の苦境が叫ばれてから長く、「実はこんなところに隠れている民俗的心性」みたいな論考ばかりが多いところで(それはそれでおもしろいけども)、もっと率直に現実を捉えるアプローチ。著者自身も、クリスマスの項でこのように述べている。「管見の及ぶ範囲では、〔民俗学では〕近年の研究成果にもクリスマスへの言及は見られないのである。クリスマスは民俗学において無視されている、というよりは、民俗学が年中行事の中にクリスマスを取り込めない、といった方が正確であると思われるのである」(107-108)。

「戦後、伝統的な通過儀礼は、年中行事と同様に、しだいに消失していった。儀礼は地域社会から離脱し、「家」ではない「家族」を母体とした儀礼へと変容していく。儀礼を支える母体の変化は、儀礼自体の意味の変容を示すものである。伝統的な通過儀礼は、表面上の形態を変えていく変化ではなく、その意味自体を変容させたのである。」(139-140)

じゅうぶんに読みやすい本であるが、この本の内容をさらに分かりやすくしたテキストブックに、石井研士『現代日本人の一生』(弘文堂、2022年)がある。

[J0273/220618]