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黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い』

副題「コロナ治療薬とワクチン」、中公新書、2022年。

第1章 パンデミックは続く、変異も続く
第2章 ワクチンの基礎知識
第3章 ワクチン開発物語
第4章 ワクチンをめぐる「困った問題」
第5章 日本のワクチンはなぜ遅れたのか
第6章 治療薬への期待
第7章 医療逼迫はなぜ起こったか
終章 コロナ禍の終わりに向けて

日本では2020年の春から本格化した、ここまでの新型コロナウイルス(CoV-2)との戦いを総括する一冊。なんだかんだ、このスピードでワクチンを開発して、普及させることができたのは科学の成果であると。たしかにジェンナー以来の医療史・医学史を広く眺めれば、おのずとそうした感想は湧いてくる。

このパンデミックに、「未曾有の事態」と危機を煽るような発言であったり、陰謀論が跋扈して、何が真実であるかという感覚自体に揺らぎを感じさせる言説が横行するなかにあって、1936年生まれの著者のセンスには、古くさくも、なにか安心感を与えてくれる「健康さ」がある。SNS以前の感覚、それも大事だなと。

[J0272/220613]

東海友和『イオンを創った女―小嶋千鶴子』

プレジデント社、2018年。

第1章 小嶋千鶴子を形成したもの―その生い立ちと試練
第2章 善く生きるということ―小嶋千鶴子の人生哲学
第3章 トップと幹部に求め続けたもの―小嶋千鶴子の経営哲学
第4章 人が組織をつくる―小嶋千鶴子の人事哲学
第5章 自立・自律して生きるための処方箋
終章 いま、なぜ「小嶋千鶴子」なのか?

今年先月、2022年5月20日に106歳で亡くなられた小嶋千鶴子は、弟の岡田卓也とともにジャスコ、イオングループを創業した経営者。1916年二、四日市の老舗呉服店に生まれ、23歳からその岡田屋呉服店の代表取締役に就任。アメリカのショッピングセンターに学びながら、1969年に、兵庫のフタギや大阪のシロとの合併を進めるなかで、ジャスコを設立した。ウィキペディアでは、パートタイム制の導入と説明されているが、この本では、1972年に「ニューホリデイシステム」というフレックスタイム制を導入したとある。

小嶋千鶴子の歩みが描かれているのは第1章だけで、あとはその経営哲学を示したお言葉の説明が続く。近現代日本におけるショッピングセンターの設立という意味でも、あるいはこの時代における女性経営者の活躍という意味でもとても興味ぶかい人物なので、より詳しい評伝の登場が望まれる。

[J0271/220611]

栗田シメイ『コロナ禍を生き抜くタクシー業界サバイバル』

扶桑社新書、2021年。

第1章 緊急事態宣言と東京のタクシー
第2章 壊滅した成田空港タクシー
第3章 群雄割拠、乱世きわめる大阪タクシー
第4章 トヨタ経済圏とタクシー
第5章 ロイヤルリムジン600人一斉解雇騒動のその後
第6章 タクシー配車アプリは業界の救世主か、破壊者か
第7章 年収1000万円、スーパードライバー達の仕事術
第8章 ドライバー経験を基にしたユニークな生き方
第9章 人生を力強く切り開く女性ドライバー達
第10章 新卒ドライバー達の、とらわれのない業界観
第11章 外国人ドライバーは人手不足解消の希望となるか

この本、タイトルに偽りあり、と言いたいかも。ただし、悪い意味ではなく。たしかにコロナ禍で厳しい状況に置かれているタクシー業界の様子にも触れられている。だけれども、後半になるにしたがい、たいへんながらもこの仕事や業界を楽しみがんばっているドライバーさんたちの姿や、そのお話の裏側にうかがわれる暖かいお客さんの存在も伝わってきて、「闇を暴く」というよりも、スタッズ・ターケル『仕事!』に近い感じで、このへんはきっとライターさんの人柄なんだろう。露悪的に闇ばかり描くのとはちがったリアリティがある。

タクシー業界、ひいては個人相手の運搬業というのは、国それぞれや時代の事情を如実にあらわしておもしろい主題。日本だったら、Uberが(少なくともここまでの第一波のところで)入りこめなかったかという問題にはずっと関心を持っている。次のブログ記事は、なるほどと感じた説明のひとつで、海外ではふつうタクシー業界ってもっとインフォーマル・セクターっぽいのだよね。といって、これもイギリスのケースには当てはまらないが・・・・・・。

>KEN NISHIMUAR、「なぜUber配車サービスは日本で失敗したのか」、Coral.

[J0270/220605]