副題「多層化する在宅医の死生観と責任感覚」、勁草書房、2025年。これは現代日本の死生学にとって重要な研究。今日、死生観を論じようとするのであれば、医療現場の様子を踏まえなくてはならない。歴史学的研究ならともかく、いわゆる人文学領域内部でだけあれこれ現代の死生観を取りざたしている研究には力がない。対して本研究は、看取りにのぞむ在宅医たちの感覚や言葉を記述していて、とても貴重で有益。

第1章 なぜ在宅医の死生観に注目するのか
第2章 調査の方法と倫理的配慮
第3章 変容する医師の役割認識
第4章 意思決定に関わる―見える実践・見えない実践
第5章 死を超えて他者とつながる
第6章 在宅医の死生観と責任の感覚
終章 在宅医の語りから見えてくること

著者は、ご本人が家庭医療・在宅医療が専門の医師とのこと。

「地域の開業医として働くことは独特の経験である。孤独がついてまわることもその特徴」(210)であるという。
「患者と適切に距離をとり、標準化された合理的な治療を行うことが、現代社会において患者と穏当に交流する方法であり、医師としての職責を適切に果たすことでもある。しかし、生活経験の世界に入っていく在宅医療ではそれだけではすまないところがある。医師たちはおそるおそる医学的な合理性とは別の価値や意味であふれる生活世界に踏み出し、医学的な合理性も大切にしながらもお互いが納得するところを探していく」(261)。
 とりわけ、医学的な標準化された合理性をはみだしがちな、死の問題に直面したときには、というわけである。とにかく、本書が書きとめている在宅医たちの語りが印象的。

[J0654/260331]