ちくま新書、2026年。研究の過程や生物化学の複雑な話も解説してしてくれて、臨場感がある記述。

第1章 昆虫の科学
 1 マクロな昆虫研究
 2 研究手法の発展
 3 分類学の革命
 4 外骨格そのものに関する研究
第2章 昆虫の誕生
 1 昆虫の起源についての仮説
 2 海の昆虫、甲殻類
 3 原始六脚類は、昆虫未満?
第3章 昆虫を昆虫たらしめるもの
 1 そもそも昆虫とは?
 2 鍵は外骨格
 3 外骨格で起きていること
第4章 昆虫は酸素をどう利用しているのか
 1 メラニン合成
 2 昆虫のサイズ
 3 酸素と外骨格
第5章 昆虫はなぜ海にいないのか
 1 水に戻る
 2 どのような昆虫が海にいるのか?
 3 昆虫が海にいない理由

ポイントは、1995年付近から提唱されて現在支持されている解釈だという、甲殻類と昆虫(六脚類)が近い種で、汎甲殻類(Pan-crustacea)から分かれた動物だという考え方。つまり、昆虫はもともと海にいた甲殻類の一部で、陸上環境に進出して、マルチ銅オキシデース(MCO2)と呼ばれる酵素を用いた外骨格硬化を行う昆虫になったのだと。本書では、タイトルの問いに唯一の回答を与えているわけではないが、理由の一部は「もともとカニなんかがいるから」という話なわけである。ただ、なぜ海に再進出しないか/できないかという問いが残っている。

マルチ銅オキシデース(MCO2)の利用の反面には、甲殻類が外骨格を固くするのに用いる「カルシウムからの決別」(114)があったという。陸上は、海中に比べると、カルシウムを得ることが難しい環境にある。一方、MCO2による外骨格形成は酸素分子を用いるとのこと。カルシウムを用いない外骨格硬化は軽量化というメリット(副産物)があり、昆虫が飛翔できる理由にもなっている。ただし、翅のように乾いた構造になると、そこからさらに脱皮して傷を修復することはできなくなる(翅ができてから脱皮するのはカゲロウのみ)。このような具合で、陸上環境に適応しすぎたというのが、海に昆虫がいない理由(のひとつ)のようである。

昆虫のサイズに関して、ひとつの要因として指摘されているのは、酸素運搬に必要な気管系の容積が、ある程度のサイズ以上になってしまうと確保できないとのことである。過去にいた巨大昆虫は、酸素分圧が高い年代に生息していたとのこと。また、水中にいる甲殻類とは異なって、脱皮後の体を支持することが難しいという仮説も挙げられている。

海周辺にもそれなりに昆虫はいるものの、海水環境に適応している昆虫は非常に稀だそう。卵から成虫まで、すべて海洋環境で暮らせる唯一の外洋性昆虫と呼ばれるウミアメンボは、海表面にいて海水中にいるわけではない。海棲哺乳類に寄生して深海に潜るアザラシシラミは、繁殖のときは陸上でなくてはならない。ウミユスリカは成虫期には空気中にいるが、それ以外は海中に暮らしており、そもそもがクマノミ並の適応力を持っていることで知られている。

[J0682/260801]