春秋社、2013年。ゴータマ・ブッダすなわち釈迦牟尼について、文献学や考古学など現在までの諸研究をもとにその足跡をたどる。伝説をそのまま紹介するのではなく、学説や解釈の揺れまで説明してくれているところがありがたい。彼が実在した人物であるということを改めて実感できる。

序説:ブッダの研究
第一章 釈迦牟尼の時代:釈迦牟尼は実在の人物か/インド哲学の曙
第二章 釈迦牟尼の誕生:伝説の特殊性/菩薩の誕生/菩薩の幼児期
第三章 菩薩の悲しみ:出家までの出来事
第四章 出家:王舎城にて/ウルヴェーラーの森
第五章 樹下成道:菩提樹の下で
第六章 ネーランジャラー河の畔にて:律蔵が説く釈迦牟尼伝の特殊性/慈悲の心
第七章 伝道のはじまり:律蔵が説く釈迦牟尼伝の特殊性(二):はじめての説法第八章 二人にして一つの道を行くなかれ:群れない修行者
第九章 教団の成立:ウルヴェーラーにもどる/舎利弗と目連/王舎城大教団の成立
第十章 その後の伝説:祇園精舎/釈迦族の出家/長老
第十一章 完全なる涅槃:霊鷲山にて/最後の遊行
第十二章 涅槃後のブッダ:救済者としての釈迦牟尼

 釈迦牟尼の誕生年は、「仏滅218年目にアショーカ王が即位した」とするスリランカの歴史書と、「仏滅から116年目にアショーカ王が即位した」という北方伝承から推測されており、結果、紀元前560年代誕生・480年代入滅説と、紀元前463年誕生・383年入滅説が併存しているとのこと。

 釈迦牟尼がとった方法、「対機説法」。「この「対機説法」という手法は仏教が包容力のある宗教となる根幹をつくりました。決して固定化せずに人々に応じて教えが説かれるわけですから、ある人に説いた説法が伝わって、後に一つの教義を確立します。また、別の人に応じて説いたものが別の教義として伝わり、「ダルマ」を示唆するさまざまな教えを許容する宗教をつくり出したのです」(124)。

 「釈迦牟尼がこの一度目的を達成した世界から、あえて喜怒哀楽をともない、苦しみをともなう俗世間にもどろうとするために作用した力を「慈悲」といいます。・・・・・・「慈」は友情を表す「慈しみ」を意味します。「悲」は、それぞれがもつ自己存在の「悲しみ」です」(141)。

 それにしても、本書を読んでいると、手塚治虫『ブッダ』のあれこれの場面が思いだされ、自分がいかにそれに影響を受けているかを感じる。手塚の『ブッダ』は史実と創作が入りまじった内容だから、どなたかぜひ、手塚のマンガに「マジレス」して、細かな考証を注釈として入れたバージョン、『詳細注釈版ブッダ』をつくってほしい。書籍でなく、マンガで。

[J0692/260824]