Author: Ryosuke

本田由紀『社会を結びなおす』

副題「教育・仕事・家族の連携へ」、岩波ブックレット、2014年。

第1章 戦後日本の二つの転機
第2章 戦後日本型循環モデルとは何か
第3章 なぜ戦後日本型循環モデルが成立したのか
第4章 新たな社会モデルへ

非正社員や自営業に対する「正社員」を範型とした「仕事」、ジェンダー分業を前提とした「家族」、就職と直結した「教育」という3領域のリンクから成る「戦後日本型循環モデル」を示す。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120630/houkoku/01_honda.html

そして、このモデルが成立しすばらしく機能した理由は、「僥倖ともいえる」時代的なタイミングであるとする。これはつまり、日本社会の特質を本質主義的(固定的)に捉える見方からは距離を取ろうとする見方である。このモデルを基礎に「新たな社会モデル」をまで提示しているのは、その有効性は別問題として、責任のある仕事という気がする。戦後日本社会の見取り図を描くという意味では、たいへん便利なパンフレットだ。

[J0343/230320]

及川順『非科学主義信仰』

副題「揺れるアメリカ社会の現場から」、集英社新書、2022年。

  • 序章 なぜ非科学主義信仰を知るべきか
  • 第1章 非科学主義の狂信者たち
  • 第2章 政治を突き動かす非科学主義
  • 第3章 なぜ非科学主義に走るのか
  • 第4章 非科学主義とどう向き合うか
  • 終章 彼らは私たちの映し鏡

アメリカの現地で取材をして、テーマ的にも重要。勉強になる本ではあるが、一方で、アメリカ文化の基本的な理解に疑問が残る。NHKの記者でもこんなかんじなのか。なんでもかんでも、むりに「非科学主義」に結びつけすぎ。なにかとすぐ聖書や神と結びつけるのはアメリカではどの陣営でもふつうのことであって、それは近年台頭してきたところの非科学主義とは言えない。本書で描かれているところの銃規制反対派は、もちろん僕もその立場を支持するつもりはまったくないが、別に宗教上の狂信でも非科学主義でもないのでは。ブサヨと呼ばれる人たちがネトウヨを叩くやりかたに似てきてしまっている。

とはいえ、知らなかった情報も多い。たとえば、反ファシズム・反白人至上主義をかかげながら暴力を辞さないという黒装束集団アンティファとか。陰謀論を主張する非科学主義者のなかに、SDGsを自分たちと信じていることと同じだと主張する人たちがいるという話もおもしろかった。Qアノンがネット上の選挙部隊としてよく働くことから、政治家と結びつきやすいというのは、例の統一教会の話とも通じている。

[J0342/230319]

石牟礼道子・伊藤比呂美『新版 死を想う』

平凡社新書、2018年。2007年の本に、石牟礼さんの詩一篇と伊藤さんの解説を増補として付したもの。

まえがき 石牟礼道子
第一章 飢えと空襲の中で見たもの
第二章 印象に残っている死とは
第三章 それぞれの「願い」
第四章 いつかは浄土へ参るべき
あとがき  伊藤比呂美
増補 詩的代理母のような人ほか一編

若い老女と、その親世代の老女とで、死をめぐる情緒を語る。伊藤さんがぐいぐいと、石牟礼さんの過去や心情に迫っていく。あとがきや増補を読んで、それは石牟礼さんに抱いている親近者のような気持ちからということが分かる。

あれこれの、戦争前後の、ちょっと前の過去の歴史をうかがうという読み方もできるし、なんだろう、死の情緒の共有とでもいうべきものがあって、日本的宗教とくには日本的仏教がずっとそういったものだったのだろうなと思う。寂しさの話や、「お名残惜しゅうございます」といった挨拶のエピソードに見られるような。

ふたりとも、妙にというか、『梁塵秘抄』に強く共感を感じている。キリスト教世界の罪概念と近いようでまたまったくちがった罪業意識というか、そういったもの。個人の意志や責任に帰される罪ではなくて、生きるためにはやむをえない罪業。それに対して、哀れみや遠巻きの共感、さらには「相哀れみ」のような感情がそこには漂っている。

巡礼、乞食がよく訪ねてきた頃の話。そうした人を大事にしたそうで。
石牟礼「女の乞食さんって、本当に可哀そうで・・・・・・。今も記憶にありますけど、目つきが鋭くて。」
石牟礼「お米を差し上げるときは、なんとなく母の目つきが悲しそうだった。決して豊かではないのに、食べるのが減るから。」

もうひとつ、本筋(?)には関係ないけど妙に印象に残ったのは、あとがきにあった、伊藤さんが石牟礼さんにこの対談を持ちかけたときの話。

「最初に思いついたのは昨年の夏だった。電話で話したら、石牟礼さんは暑さに息もたえだえで、「この、呪われた、熊本の夏!」とののしっておられた。」

そういうものよ。そういうもの。

[J0341/230309]