Author: Ryosuke

上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』

文春新書、2013年。

  • ネオリベ/ナショナリズム/ジェンダー
  • 雇用機会均等法とは何だったか?
  • 労働のビッグバン
  • ネオリベと少子化
  • ネオリベとジェンダー
  • ネオリベが女にもたらした効果―カツマーとカヤマーのあいだ
  • オス負け犬はどこへ行ったのか?
  • ネオリベ・バックラッシュ・ナショナリズム
  • ネオリベから女はトクをしたか?
  • 性差別は合理的か?
  • ネオリベの罠
  • 女たちのサバイバルのために

女性の労働環境について均等法以降の状況を、講義録風に解説。2013年出版の本ということで一昔前の話にはなったが、バックラッシュを経て現在にいたる状況を知るのに最適な一冊と言える。

エリート女性の社会進出を促進しつつも、女性間を格差ももたらした新自由主義の罠。自己責任論的な意識が、弱者の側にも行きわたって閉まったという。赤川学さんによるフェミニスト的データ解釈批判との対話(第九章)や、川口章さんによる女性差別の経済的合理性分析の解釈(第十~十一章)なども興味深し。

[J0175/210714]

南博・稲場雅紀『SDGs』

岩波新書、2020年。

第1章 SDGsとは何か
第2章 国連でのSDGs交渉
第3章 日本のSDGs
第4章 「地球一個分」の経済社会へ
第5章 2030年までの「行動の10年」

南さんは、日本政府の首席交渉官として SDGs 交渉を担当した方とのことで、各国の利害関係のなかでは話が進められた、SDGs の成立過程が詳しく述べられている。

SDGs、大事だろうとおもうけど、今ひとつテンションが上がらないのは、新しい革命的なヴィジョンを打ちだすというより、これまでに生まれた歪みをなんとか、それもそのシステム内で修正していこうという種類のものだからかな。これは SDGs が悪いというより、近代資本主義システムの広がりにおいて、そういう「時代」なんだってことだろう。過激である必要はなくとも、根気のいる時代ではある。
[J0174/210712]

『妙好人 因幡の源左』

柳宗悦編、衣笠一省改訂増補、百華園、1960年、改訂版2005年。

一 源左の言行
一 源左の法語
一 源左への思出
一 源左の一生
一 付録・賞状・家系・文献・其の他

編者がなるべく手を加えずに、関わった人からの聞き書き集としてまとめてあるのがありがたい。内容の重複を厭わずに複数の証言を掲載してくれている点も。

字面だけ辿ったら、今ふつうの価値観からしたら卑屈にもみえるだろう。繰り返される「おらより悪い者はない」ということば。柳宗悦の文章「源左の一生」から引けば、「自分こそこの世で最も悪い者だといふ」自覚である。

もちろん、これらの言葉が命をもつのは源左の人格のもとにそれが体現されているからだろうけども、この言行録を読んでいて感じるのは、それと同時に鳥取の風土や、源左を取りかこむ人々もまた、この宗教的生命の源になっているということ。源左を敬う人々や、ときに源左の言葉を必死に求める人々の心の純真さ。いまそれが、どこにあるだろうか。しかし幸い、鳥取という地理について言えば、源左が生きた頃の面影を今も感じとることができる。土地の時代的連続性って、生きた歴史を保つのにぜったいに大事だろうと思う。

「こんつあんは、まんだ、この世の親たあ別れてをらんで、そがに早やにやあ親心はもらへんわいの、そろそろにやわかるわいのう」。「親がなあなつてみりや世間は狭いし、淋しいやら悲しいやらで、おらの心はようにとぼけてしまつてやあ」。父親の死が気づきを得る契機になったことも、そしてそれを遂に得たのが、動物である牛との対話だったことも示唆的だ。親と別れると世間は狭いとな。

信仰の境地の話から離れて、通俗道徳論から言えば、まさに典型という。つねに後生に思いを寄せながら、とにかく仕事にいそしむ。役場が税の滞納に困っていたら、みなが納税をするように助ける。周囲の人間関係と広い天地から世界ができていて、組織や制度としての「社会」というものはない。昭和5年まで生きた源左は、戦争のことをどう捉えたのだろうか。

芹沢銈介(おそらく)による挿画がなんとも美しい。美術書でもない言行録であれば――源左という人物自体の話でもまたなくて――、どうも僕には美しすぎるようだ。[もう一度確かめてみたら、挿画の版画は芹沢でなくて鈴木繁男のようだ。]

[J0173/210710]